「夏のすいせん図書読書感想文コンクール 2019」中学年の部の課題図書、『エレベーターは秘密のとびら』の読書感想文です。
分量は、題名・学校名・氏名を除き、400字詰め原稿用紙で3枚ぴったりです。
目次
『エレベーターは秘密のとびら』
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『エレベーターは秘密のとびら』を読んで
神奈川 太郎
『エレベーターは秘密のとびら』を読んでいちばん心に残ったのは、ナゾが解けるタイミングのすばらしさです。
わたしにこの本のナゾが解けたのは、五二ページのカナちゃんのまとめを見たときでした。このタイミングはきっと、作者の三野先生がねらいすましたタイミングに違いありません。ページを一枚めくると、第七章のタイトルは「七 さい?」。章の初めにおかあさんが
「『さい』じゃないのね」
と言ったときに、わたしの答案にマルがつけられました。本を読んでいて、自分の予想通りのお話になることほどおもしろいことはありません。「来るかな来るかな?」という期待が満たされたときに、わたしたちは文字通り満足します。
それにしても、二〇一〇年に、二五階があるようなタワーマンションを舞台にして、こんなにステキな児童文学が書かれていたなんておどろきです。さし絵はばっちりと子どもの本のもので、お話自体にも文句のつけようがありません。このすばらしさはきっと、いろいろなことを盛り込ま「ない」ことから生まれてくるものでしょう。
まず、SFのお話を考えたときに、いちばん手をかけたいのが設定です。なぜ「そういう」ことが起こるのか、その種明かしをお話のまんなかにすえたいと思ってしまいます。しかし、『エレベーターは秘密のとびら』では、なぜエレベーターが「秘密のとびら」になっているのかということについて、まったくふれられていません。この思い切りのよい書きぶりが、物語にピッタリとはまっています。
また、タワーマンションを舞台にした物語であれば、ついつい住んでいる階の違いで起こるあれこれを組み込みたくなります。ところが、そういった「どく」が本のなかに少しもまじっていません。子どもが楽しめるようにというエンターテイメントの気持ちが、ストレートに、おもしろい作品を作り上げています。
物語の長さもちょうどよいです。メインのテーマだけを追って、けっして横道にそれない流れは、とても気持ちのよいものでした。だれが何階で何を見た――といった複雑な部分について、きちんとカナちゃんやリセがまとめてくれているのも親切です。
『エレベーターは秘密のとびら』のような子ども向けの本は、なかなか広く注目されることがありません。わたしもきっと、今回の課題図書になっていなかったら、この本を知らずに終わっていたでしょう。
しかし、それでも、子どものだれもがむねを張って楽しめる本を作っている方々がいます。とてもていねいな仕事を、目立たずに続けて下さっている方々がいます。読み終えた一冊を見ながら、わたしは、そうした方々への尊敬の気持ちを新たにしました。
参考
課題図書
課題図書 2019 夏のすいせん図書読書感想文コンクール
https://kanagaku.com/archives/27168