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『キワさんのたまご』読書感想文

『キワさんのたまご』読書感想文です。

分量は、題名・学校名・氏名を含め、400字詰め原稿用紙で3枚程度です。


『キワさんのたまご』

キワさんのたまご

キワさんのたまご

  • 作者:宇佐美 牧子/藤原 ヒロコ
  • 出版社:ポプラ社
  • 発売日: 2017年08月05日

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『キワさんのたまご』を読んで

神奈川 太郎

 わたしたちにとって、家族や友だちはとても大切です。また、自分が夢中になれる何かも、同じように大切です。この二つの両方に、同じぐらい愛情と時間とを注ぐことができればよいのですが、ついつい私たちは自分が夢中になれる何かにのめり込んでしまいます。

 『キワさんのたまご』の主人公、サトシには、夢中になれることがありません。サトシの両親には「弁当屋アサヒ」があり、友だちの颯太にはサッカーがあります。しかしサトシにはそういったものがありません。だから、『キワさんのたまご』第一章のタイトルは「つまらない夏休み、スタート」です。

 物語全体を、ずっと、何か暗い雲のようなものがおおっているようです。子ども向けの本で、エピソードも大したものではないのですが、どこかこう、えぐっていったらグロテスクなものが出てきそうなふんいきがただよっています。もちろん、そんなものが出てくることなく、作品はハッピーエンドをむかえるのですが。

 サトシのお父さんとお母さんは、弁当屋アサヒの三周年記念日「ハートの日」に、サトシとの約束があったにもかかわらず、弁当屋の仕事をし続けてしまいます。せっかく二人をよろこばせようと計画をねっていたサトシには、それがショックで仕方ありません。サトシはキワさんのところへと自転車をとばしました。

 お父さんとお母さんには、夢中になれる何かがあります。そして二人はそのためにサトシにかける愛情と時間とを少なくしてしまいました。サトシはそれを感じ取り、特別な日にさえ自分との約束を守ってもらえないことに大きな悲しみを抱きました。

 二人にとって弁当屋アサヒは夢中になれる何かです。また、生活を成り立たせるための仕事でもあります。自分たちが大好きな仕事に高い優先順位をつけるのは自然なことです。しかし、そこに自分たちの子どもがいたらどうでしょうか。少なくとも子どもからしてみれば、たまには仕事ではなく自分のことを見てほしいと思うのもうなずけます。もちろん、大人からしてみれば、いつも優先順位の一等賞を子どもに取られるのはイヤでしょうけれども……。

 『キワさんのたまご』の主題は、愛情と時間とを何に注ぐかのバランスでしょう。物語としては、家族に、特に子どもにもっとそれを注ぐべきだという立場をとっているのだと思います。颯太がサッカーの試合に出られなかったエピソードでは、下の子と上の子とのバランスにも触れられているでしょうか。

 わたしたちは――少なくともわたしは――よくバランス感覚を欠いてしまいます。それでもわたしがハッピーに暮らせているのは、アンバランスになったわたしをやさしくみちびいてくれる家族や友だちに恵まれたからでしょう。


参考

課題図書

課題図書 2019 夏のすいせん図書読書感想文コンクール
https://kanagaku.com/archives/27168