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藤沢市教委、教諭による特定生徒への定期試験問題漏洩を発表
藤沢市教育委員会は 15 日、
と題した記者発表資料を公開。
藤沢市立湘南台中学校で 11 月5日に行われた後期中間試験「英語」に関し、教諭(臨時的任用職員)が事前に特定の生徒に問題及び解答の一部(100 点満点中 50 点分)を漏洩していたと明らかにしました。
漏洩は当該教諭が日頃から SNS でやり取りをしている生徒に対し「ダイレクトメッセージ」( DM )機能を使って行われました。当該教諭が DM で送った写真を他の生徒に転送させるなどしたため、試験実施前に数名の生徒が問題と解答の一部とを知っている状態でした。
同様の漏洩は8日に行われた英語リスニングテストについても行われました。
「いい成績を取らせたかった」とインスタで DM し広がる
動機
NHK の報道によれば教諭は 40 代の女性で、漏洩の動機について
日頃から、SNSで特定の生徒とやりとりをしていて、いい成績を取らせたかった
と話しているといいます。
毎日新聞は漏洩に使われた SNS が Instagram(インスタグラム)だと明らかにした上で、詳細を
教諭は2019年から臨時的任用職員として同中学校に着任。市教委の聞き取りに対し「1年生から教えていた生徒で、よく相談も受けていた。少しでもいい点を取ってほしいと思い、やってしまった」と話したという
と伝えています。
当該教諭が着任時に初めて担当し3学年にわたって指導を続けてきた生徒のうち、特に私的な繋がりが強かった生徒に対して問題をリークしてしまったことがうかがえます。
発覚の経緯
テレ朝 news 報道によれば、発覚の経緯は
複数の生徒から「不平等だ」と別の教師に訴え
があったというもの。
藤沢市教育委員会の発表では漏洩の規模について触れられていませんが、神奈川新聞によれば、
英語試験直前〔中略〕生徒3人に送信。8日に行われた英語リスニングテストの実施前にも同じ生徒に問題と解答を写真で送った。
これらの問題と解答はSNSを通じて3人以外の生徒にも拡散
と報道されています。この報道は記者発表の「別の生徒にも写真を転送させるなどして、試験実施前に生徒数名に漏らした」という文言とやや印象が異なるでしょうか。
問題と解答とが拡散するなかで、漏洩の事実に気づく生徒が出てきた模様です。
高校受験のための「内申点」が決まる最も大切な試験
公立中学校に通う中学3年生にとって、後期中間試験は特別な意味を持ちます。
後期期末試験(学年末試験)を経てつけられる成績は公立高校の共通選抜や私立高校の推薦入試・一般入試出願よりあとに確定します。このため、後期中間試験(2学期期末試験)を終えた段階での成績が内申点(評定値)となって公立高校入試・私立高校入試のそれぞれに関わります。
公立高校入試では第一次選考(定員の 90 %までの合否を決定)に内申点が用いられるため、同じ学力検査得点・面接得点(・特色検査得点)の受験生がいれば内申点が高い方が有利です。また特に私立高校入試では、内申点が「1」足りないために進路相談での合格確約を得られないようなケースが毎年頻発します。
このため、公立中学校3年生の後期中間試験(や2学期期末試験)は他の定期試験に比べて重要度が高いわけですが、その後期中間試験で特定生徒への意図的な漏洩が発生したとなると、公立中学校への不信感が増すことになりそうです。
公立高校入試における後期中間内申点
- 神奈川県公立高校 合格可能性 80 %基準値 2022
https://kanagaku.com/archives/46588
神奈川県公立高校 合格可能性 80 %基準値 2022 - 神奈川県公立高校入試 学校別合格者平均内申点 /135 2021
https://kanagaku.com/archives/50455
神奈川県公立高校入試 学校別合格者平均内申点 /135 2021
私立高校入試における後期中間内申点
※私立高校によっては進路相談時に確約の可否を決定する内申点の時期を「3年後期中間(または3年2学期期末)」に限定していません。
- 内申基準早見表 2021 神奈川県私立高校入試
https://kanagaku.com/archives/48019 内申基準早見表 2021 神奈川県私立高校入試
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背景には高まる臨時的任用職員への依存も
今回の事件の背景のひとつには、公私を問わず高まる臨時的任用職員・非正規雇用教員への依存を挙げられるでしょう。
公立学校の臨任依存
神奈川県高校教育会館教育研究所員の金沢信之氏は「シリーズ 『教育現場の非正規雇用』 第3回 臨時的任用教職員」のなかで、公立学校での臨任教員の増加とその実態について極めて詳細な報告を行っています。
「義務教育費国庫負担制度」 が職員配置の自由度を疎外しているとして、 小泉内閣は地方分権をより進める観点から 「総額裁量制」 を04年に導入した。 これは 「義務教育費国庫負担金の総額の範囲内で、 給与額や教職員配置に関する地方の裁量を大幅に拡大する仕組み」 であると説明され、 非常勤の教職員を国庫負担の対象とし、 給与額の削減効果で職員数を増加させることを可能とした。 それによって、 習熟度別授業やティームティーチング、 多様な選択授業が地方の判断で可能になったとしている。 非正規雇用の増加を制度的に担保したのである。 これ以後、 財源の乏しい地方自治体ほど非正規の教員採用へと傾斜していった
雇用形態による仕事内容の差別も許されるべきではない。 臨任も常勤職員と同じように仕事をすることができる職場であることは重要である。 しかし、 劣悪な労働条件や採用の不確実さをそのままにして仕事の責任ばかりが重くなっているとしたら
私立学校の非正規依存
神奈川県の「臨時的任用職員」にあたる「非正規雇用教員」の問題は、私立学校でもたびたび噴出しています。
県内では橘学苑(横浜市鶴見区)での「雇い止め」が記憶に新しいところで、裁判開始前の学苑の詳しい状況が私学教員ユニオンの記事に残されています。
- 私学教員ユニオン
【橘学苑】生徒・保護者をないがしろにし『明確な基準はない』雇い止めを強行
http://shigaku-u.jp/2020/03/tachibana-0312/
2020 年3月 12 日校長が15年間で5人、教員が6年間で100人以上辞めていく異常な状況
- 私学教員ユニオン
【橘学苑】非正規雇用教員の「使い捨て」問題について、卒業生・保護者と記者会見を行いました!
http://shigaku-u.jp/2020/03/tachibana-kaiken/
2020 年3月 13 日非正規雇用教員の「使い捨て」は私学全体に広がっている
- 私学教員ユニオン
【橘学苑】団体交渉にて未だ交渉中にもかかわらず、橘学苑は組合員への不当な懲戒処分を強行
http://shigaku-u.jp/2020/03/tachibana-0325/
2020 年3月 25 日 - 私学教員ユニオン
【橘学苑】自主性と公共性から逸脱した経営陣の責任を見過ごしてはいけない
http://shigaku-u.jp/2020/04/tachibana-0412/
2020 年4月 12 日
【橘学苑】保護者23人と教員5人の計28人が学苑と幹部を相手取り、計約700万円の損害賠償を求め、横浜地裁に提訴した。訴えによると、教員の大量退職や部活動顧問の解任、新型コロナでの学習対策といった学校経営に問題があり、生徒の学ぶ環境が不十分としている。https://t.co/nDWvXljuma
— 私学教員ユニオン (@shigaku_union) May 31, 2020
関連記事
『二月の勝者』で描かれる、公立中学校の内申点への不信感
- 『二月の勝者』第33講「七月の先輩」感想(その1/3)
https://kanagaku.com/archives/24389お姉ちゃんの高校受験の時は苦労しました。
テストで9割以上、平均より25点多く取っても、評価が5点満点中4までしか取れなくて…社交的で部活も勉強も頑張るタイプの姉でもあんなでしたから…
- 『二月の勝者』第33講「七月の先輩」感想(その2/3)
https://kanagaku.com/archives/24628定期テストは90点以上で「5」の「可能性」があり、
80点台なら「4」 70点以下なら「3」、
平均点あたりの生徒で「授業態度が悪い」「提出物の期限守らない」をカウントされると「2」か「1」。 - 『二月の勝者』第33講「七月の先輩」感想(その3/3)
https://kanagaku.com/archives/24633- 授業中に積極的に質問をしているか? 簡単すぎる質問は逆にダメ。難しすぎてもダメ。
- 頬杖は厳禁!
- 当てられてすぐに「わかりません」はダメ! 一応自分の考えを話すべし!
- 「5」を取りたいのならここまでやれ!! (テスト90点以上は最低条件!!)
これらを戦略的に効率よくこなした上で、定期テストをしっかり取り、なおかつ部活動で活躍し(チームプレイ必要系が良し)生徒会活動も精力的にこなせるリーダータイプ
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参考文献
藤沢市教育委員会発表
- 藤沢市教育委員会 教育部教育指導課,「市立中学校における試験問題等の漏洩について」,https://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/sidouka/press/intermediatetest.html,2021 年 11 月 15 日.
https://web.archive.org/web/20211115165110/https://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/sidouka/press/intermediatetest.html - 藤沢市教育委員会 教育部教育指導課,「市立中学校における試験問題等の漏洩について」,https://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/sidouka/press/documents/211115pressrelease.pdf,2021 年 11 月 15 日.
https://web.archive.org/web/20211115165402/https://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/sidouka/press/documents/211115pressrelease.pdf
各種報道
- 神奈川新聞社カナロコ,「良い成績取ってほしくて 藤沢の教諭、SNSで解答伝える」,https://www.kanaloco.jp/news/government/article-745948.html,2021 年 11 月 15 日.
https://megalodon.jp/2021-1116-0243-49/https://www.kanaloco.jp:443/news/government/article-745948.html - NHK NEWS WEB,「中間試験などの問題 教諭がSNSで一部生徒に漏洩」『首都圏 NEWS WEB』,https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20211115/1000072644.html,2021 年 11 月 15 日 19:25.
https://web.archive.org/web/20211115132732/http://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20211115/1000072644.html - テレ朝 news,「教師が中3の試験問題漏洩 「少しでもいい点を」」,https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000235201.html,2021 年 11 月 15 日 19:45.
https://megalodon.jp/2021-1116-0236-25/https://news.tv-asahi.co.jp:443/news_society/articles/000235201.html - 毎日新聞(因幡健悦 記者),「中学教諭、SNSで英語解答漏らす「少しでもいい点を」 神奈川・藤沢」,https://mainichi.jp/articles/20211115/k00/00m/040/248000c,2021/11/15 20:56(最終更新 11/15 20:57).
https://web.archive.org/web/20211115174248/https://mainichi.jp/articles/20211115/k00/00m/040/248000c
「臨時的任用職員」について
金沢信之,「シリーズ 『教育現場の非正規雇用』 第3回 臨時的任用教職員」,『ねざす』No.44 72 ページ~,http://www.edu-kana.com/kenkyu/nezasu/no44/hiseiki.htm,2009 年 11 月.
https://megalodon.jp/2021-1116-0330-22/www.edu-kana.com/kenkyu/nezasu/no44/hiseiki.htm