横浜市教育委員会は「令和3年8月4日定例会」を YouTube でライブ配信します。
審議案件は
教委第18号議案 高等学校用教科書、特別支援学校及び小・中・義務教育学校個別支援学級用教科書並びに中学校・義務教育学校後期課程、南高等学校附属中学校及び横浜サイエンスフロンティア高等学校附属中学校用「社会科歴史的分野」の教科書の採択について
です。
目次
中学校歴史教科書再採択の経緯
横浜市立中学校の歴史教科書には 2020 年8、帝国書院のものが採択されました。しかし文部科学省が 2021 年3月、
自由社の「新しい歴史教科書」について……再申請により……検定を経て新たに発行されることとなったことから……採択替えを行うことも可能である
と通知。
横浜市の鯉渕信也教育長(元横浜市健康福祉局長)はこれを受けて「令和3年5月 13 日定例会」に
教委第1号議案
令和3年度横浜市教科書採択の基本方針の策定について
https://drive.google.com/file/d/1JNuKkYRrM_XkkJ85J5ydGUqqmFLyibEs/view
を提出しました。
会議の結果、議案が原案の通り承認され、横浜市立中学校(義務教育学校・附属中学校を含みます)の歴史教科書について、2021 年にも採択が行われることになりました。
※経緯の詳細はカナガク内記事「横浜市立中学校の歴史教科書、異例の2年連続採択へ」にまとめてあります。
YouTube で教育委員会を見られる好機
ふだん、横浜市教育委員会は会議のインターネット中継を行っておらず、傍聴のためには横浜市役所まで出かけなければなりません。定員も限られます。
しかし今回は中学校の歴史教科書採択ということで、多くの傍聴希望者が見込まれた(実際に事前抽選には 173 名の応募がありました)ため、昨年同様に YouTube ライブが行われることになりました。
歴史教科書問題に関心があり傍聴を希望する場合には、歓迎される対応です。また、日頃から教育委員会会議の様子に興味があるけれども実際に市役所まで行くのはハードルが高くて――という場合にも、今回の YouTube ライブは好機となります。
採択方法について
横浜市教育委員会では6名の教育委員による多数決で採択教科書を決めています。
2020 年の歴史教科書採択では、
- 帝国書院:4票
- 育鵬社:2票
で帝国書院の採択となりました。
昨年から教育委員が2名変わっているため、昨年とは異なる「投票」結果となるケースが考えられます。
もし2社の教科書に3票ずつが入った場合(2社同数の場合)、例年通りであれば鯉渕教育長が2社のうちから1社を選びます。いわば鯉渕教育長が「2票目」を持っているシステムです。
システムの問題点について、神奈川新聞社の成田洋樹記者が以下のように発信なさっています。
成田洋樹記者 Twitter
【2020横浜教科書採択】横浜市教委の採択プロセスには多々問題があるが、その一つが、教育委員6人の判断が3対3の同数で割れた場合の対応。この2社に絞って議論を尽くして結論を出すのではなく、教育長がすぐさまどちらかを選ぶというやり方を続けている。教育長が2票持っていることになる。
— 成田洋樹 (@narita_hiroki) August 4, 2020
今回は3対3の同数で割れる教科はなかったが、中学校「歴史」では帝国書院4票、育鵬社2票だった。同数になっていれば、鯉渕教育長が「2票目」を使って選ぶことになっていた。2015年採択では歴史・公民ともに3対3の同数になり、当時の岡田教育長がいずれも育鵬社を選んだ。
— 成田洋樹 (@narita_hiroki) August 4, 2020
二票持っている鯉渕教育長は司会役だけをこなし、意見をまったく述べないまま無記名投票を粛々と投じていた。教育委員会のトップが各社の教科書をどう評価し、どのような観点で意中の教科書を選んでいるのかがまったく分からないのは異様だ。
— 成田洋樹 (@narita_hiroki) August 4, 2020
【参考】神奈川新聞記事 2015 年育鵬社採択時
神奈川新聞社カナロコ,「【一問一答】透明性より「外圧の方が怖い」 横浜市教育長」,https://www.kanaloco.jp/news/social/entry-63265.html,2015 年8月6日.
https://web.archive.org/web/20210802184122/https://www.kanaloco.jp/news/social/entry-63265.html
横浜市の教育長・教育委員
2021 年度
- 教育長
鯉渕信也(こいぶち しんや)
元健康福祉局長
任期:令和3年4月1日から令和6年3月 31 日まで
(平成 30 年4月1日から令和3年3月 31 日まで) - 教育長職務代理委員
中上直(なかがみ なおし)
元区長、元教育次長
任期:令和3年4月2日から令和7年4月1日まで - 委員
森祐美子(もり ゆみこ)〈保護者委員〉
特定非営利活動法人理事長
任期:平成 30 年7月1日から令和4年6月 30 日まで - 委員
木村昌彦(きむら まさひこ)
横浜国立大学教授
任期:令和元年 12 月 21 日から令和5年 12 月 20 日まで - 委員
四王天正邦(しおうでん まさくに)
元特例子会社代表取締役、特定非営利活動法人アドバイザー
任期:令和2年4月1日から令和6年3月 31 日まで - 委員
大塚ちあり(おおつか ちあり)
元横浜市立学校長
任期:令和3年4月2日から令和7年4月1日まで
2020 年度
- 教育長
鯉渕信也(こいぶち しんや)
元健康福祉局長
任期:平成 30 年4月1日から令和3年3月 31 日まで- 教育長職務代理委員
大場茂美(おおば しげみ)
元横浜市副市長
任期:平成 29 年4月2日から令和3年4月1日まで- 委員
中村幸子(なかむら さちこ)
元横浜市立学校長
任期:平成 29 年4月2日から令和3年4月1日まで- 委員
森祐美子(もり ゆみこ)〈保護者委員〉
特定非営利活動法人理事長
任期:平成 30 年7月1日から令和4年6月 30 日まで- 委員
木村昌彦(きむら まさひこ)
横浜国立大学教授
任期:令和元年 12 月 21 日から令和5年 12 月 20 日まで- 委員
四王天正邦(しおうでん まさくに)
元特例子会社代表取締役、特定非営利活動法人アドバイザー
任期:令和2年4月1日から令和6年3月 31 日まで
※大場茂美氏は男性。赤字は 2020 年度と 2021 年度との差分となっている方々。
注
引用文中の強調はカナガクによります。
関連記事
- 【速報】横浜市教科書採択 歴史は帝国書院 公民は東京書籍
https://kanagaku.com/archives/37759 - 横浜市立中学校採択教科書 2021~2024 年度
https://kanagaku.com/archives/37777 - 横浜市立中学校の歴史教科書、異例の2年連続採択へ
https://kanagaku.com/archives/46929
中田市長時代からの悲願、育鵬社採択復活なるか
横浜市では中田市政時代(※)から、育鵬社の歴史教科書が好まれてきました。今回の採択でもっとも注目されるポイントは「育鵬社が復活するのかどうか」でしょう。
産経新聞のインタビュー記事、
育鵬社版採択問題「首長は教育委員の人選でリーダーシップを」
中田宏・前横浜市長
で中田氏が語っています。
※在職 2002(平成 14)~2009(平成 21)年。2009 年に林文子現市長にバトンタッチ。
育鵬社の歴史教科書を推す人物を教育委員に任命
中田氏は平成14~21年に横浜市長を務めた。在任中には4期14年にわたり教育委員を務めた元同市総務局長の今田忠彦氏をはじめ、評論家の小浜逸郎(いつお)氏らを教育委員に抜擢(ばってき)。任命した委員は自由社版や育鵬社版を推す中心メンバーとなった。
教育委員は任期が4年で、横浜市は教育長を含めた6人のうち、毎年おおむね1人ずつ満了を迎える。市長1期では全員を替えることはできない」
自身が選んだ教育委員たちに自由社版や育鵬社版を採択する流れをつくってもらう意図があったのか
「『子供たちが自立した日本人になるための教育を』という視点で、首長が教育委員にふさわしい人選をした。その方々が全ての教科書を読み比べ、客観的に選んだら、おのずとそうなったということ」
--教育委員会の中立性を保ちつつ、首長が教育行政に臨むべき姿勢とは
「人選が首長のできる最重要かつ唯一のこと。見識と情熱のある人を探し出せるかどうかが、教育での首長のリーダーシップだ」
【参考】今田忠彦氏、「震災いじめ」時の教育長
- 産経新聞,「前横浜市教育委員長・今田氏インタビュー(上)「方面別事務所、重要性議論の検証を」」,https://www.sankei.com/article/20170912-LE3R2NSOLBIVTH3D76U65CQMWI/,2017 年9月 12 日.
https://web.archive.org/web/20210802184727/https://www.sankei.com/article/20170912-LE3R2NSOLBIVTH3D76U65CQMWI/ - 産経新聞,「前横浜市教育委員長・今田氏インタビュー(下)「日本的な良さ 再確認すべき」」,https://www.sankei.com/article/20170913-K5SFAA76JBKE3BGTAP4DEFQQDI/,2017 年9月 13 日.
https://web.archive.org/web/20210802184729/https://www.sankei.com/article/20170913-K5SFAA76JBKE3BGTAP4DEFQQDI/
※横浜市役所・市の行政組織と「いじめ」、ハラスメント
加納重雄(公明党市会議員(当時)),「横浜市市民局の人権研修 その1」『不可能をかのうにする かのう重雄 オフィシャルブログ「一つ、ひとつを重ねて」』,https://ameblo.jp/shigeo-kanou/entry-11959051904.html,2014 年 11 月 30 日.
https://web.archive.org/web/20210802183502/https://ameblo.jp/shigeo-kanou/entry-11959051904.html
参考文献
- 横浜市教育委員会,「令和3年8月4日定例会(インターネット中継のご案内)」,https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/kosodate-kyoiku/kyoiku/iinkai/kaigi/r03/0804kaigi.html,2021 年8月2日.
https://web.archive.org/web/20210802172358/https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/kosodate-kyoiku/kyoiku/iinkai/kaigi/r03/0804kaigi.html
- 文部科学省,「令和4年度使用教科書の採択事務処理について(通知)(令和3年3月30日)」,https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/saitaku/1384051.htm,2021 年3月 30 日.
https://web.archive.org/web/20210802172824/https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/saitaku/1384051.htm
- 産経新聞,「育鵬社版採択問題「首長は教育委員の人選でリーダーシップを」 中田宏・前横浜市長」,https://www.sankei.com/article/20200912-UKDGEMP4WVIH3FRW7LB6B5NQGU/,2020 年9月 12 日.
https://web.archive.org/web/20210802181811/https://www.sankei.com/article/20200912-UKDGEMP4WVIH3FRW7LB6B5NQGU/
https://web.archive.org/web/20210802181857/https://www.sankei.com/article/20200912-UKDGEMP4WVIH3FRW7LB6B5NQGU/2/