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「資料が整わない者の選考」肥大化 懸念される3つの影響

神奈川県教育委員会は先月 19 日、新型コロナウイルス感染症に関する公立高校入試での新たな対応を発表しました。

発表によれば、受験生が体調不良で面接特色検査等の受験を見合わせた場合、中学校長の「事由報告書」によって、「資料が整わない者」として選考されます。

この対応をとった場合、仮に資料が整わない者の選考が肥大化すると、受験生に大きな影響を与えます。


神奈川県公立高校入試の選考フロー

神奈川県公立高校入試(共通選抜)では、受験生が試験(学力検査・面接(・特色検査))を1回受けたあと、それらの得点に調査書の数値を併せて

  1. 第1次選考
  2. 資料が整わない者の選考
  3. 第2次選考

の順に選考を行っていきます。

最も多くの受験生に関係するのが第1次選考で、ここで共通選抜募集人員の 90 %まで合格者が決まります。

次に「資料が整わない者の選考」が行われ、該当する受験生の成績が第1次選考合格者の成績に相当するかどうか判断され、合否が決まります。

最後に、第1次選考でも「資料が整わない者の選考」でも不合格となった受験生を対象として第2次選考が行われます。募集人員いっぱいまで合格者が決まります。


「資料が整わない者の選考」肥大化の影響

影響1.狭まりかねない第2次選考枠

「令和3年度 神奈川県公立高等学校の入学者の募集及び選抜実施要領」13 ページによれば、

共通選抜募集人員の 90 %とは、共通選抜募集人員に 0.9 を乗じ、小数点以下を切り捨てた数値とする。ただし、資料の整わない受検者の数が、共通選抜募集人員から共通選抜募集人員の 90 %を減じた数以上の場合には、共通選抜募集人員から「資料の整わない受検者の数+1」を減じた数とする

とあります。

これは、「資料が整わない者の選考」が

  • 第1次選考のあとに行われ、
  • 該当者の人数や合格状況によって他の選考枠を削りうる

ことを意味するでしょう。

特に「資料が整わない者の選考」で多くの合格者が出た場合、調査書が合否に関係しない第2次選考の枠が狭まります。

第2次選考での合格を狙う受験生にとって最も危惧されるケースは、

  • 「資料が整わない者の選考」の該当者数が第1次選考の合格枠を削らないにもかかわらず
  • 「資料が整わない者の選考」の該当者のなかから多くの合格者が出るケース

です。

※逆に「資料の整わない受検者の数が、共通選抜募集人員から共通選抜募集人員の 90 %を減じた数以上の場合」で、そこからの合格者が少ない場合、第2次選考の枠が広がります。

例1:募集定員 238 人、該当者 30 人

たとえば、いま、募集定員 238 人の高校があるとします。「資料が整わない者の選考」に該当する受験生がいなければ、

  • 第1次選考:214 人合格
    (238×0.9=214.2)
  • 第2次選考:24 人合格

です。

ここにもし「資料が整わない者の選考」に 30 人の受験生が該当したとすると、

  • 第1次選考:207 人合格
    (238-(30+1)=207)
  • 資料が整わない者の選考:X人合格
    (X≦30)
  • 第2次選考:238-(207+X) 人合格

となります。

「資料が整わない者の選考」で多くの合格者が出た場合、制度上、第2次選考の合格枠が1人にまで減りうることが分かります。

※逆に、たとえばこの例で「資料が整わない者の選考」で合格者が0人だった場合、第2次選考の枠が7人分広がります。

例2:募集定員 398 人、該当者 39 人

第1次選考の定員が削られない場合も考えてみましょう。

たとえば、いま、募集定員 398 人の高校があるとします。「資料が整わない者の選考」に該当する受験生がいなければ、

  • 第1次選考:358 人合格
    (398×0.9=358.2)
  • 第2次選考:40 人合格

です。

ここにもし「資料が整わない者の選考」に 39 人の受験生が該当したとすると、

  • 第1次選考:358 人合格
  • 資料が整わない者の選考:X人合格
    (X≦39)
  • 第2次選考:398-(358+X) 人合格

となります。

この場合「資料が整わない者の選考」と第2次選考とを合わせた合格枠が増えていない以上、第2次選考で合格を狙う受験生は不利になるばかりだと思われます。

7月時点の県教委見解

県教委は7月、かながわ民間教育協会の質問に対し

コロナ禍での2次選考枠の圧縮についてはありえない

としていました。

しかし、「新たな対応」を発表したいま、状況に変化はないのでしょうか。

影響2.実技検査欠席者の選考

特色検査のうち「実技検査」を欠席したものを「適正に選考」できるのかという疑念も拭いきれません。

県教委は「新たな対応」で、実技検査を受験できなかった者についても、各高校が「参考にできる資料を活用して適正に選考」するとしています。「参考にできる資料」は「調査書や受検した他の検査の結果等」です。

しかし、

  • 音楽科の演奏
  • 美術科やデザイン科のデッサン
  • スポーツ関連学科の運動実技

といった実技検査を欠席した場合の「参考にできる資料」について、十分な説明は為されているでしょうか。

もし調査書の音楽・美術・体育の評定を参考にするのであれば、選考に占める調査書の比重が重くなり過ぎるように思われます。

また、もし部活動等の実績を参考にするのであれば、2020 年の各種コンクール結果・大会結果等の「参考にできる資料」が少な過ぎるように思われます。

さらに言えば、神奈川総合の舞台芸術科では「身体表現・演技表現」の実技検査が行われるわけですが、これについて「参考にできる資料」とは、いったい何なのでしょうか。

専門学科を擁する学校のホームページを確認してみると、たとえば

といった情報のままであり(12 月 21 日時点。上記リンク先はアーカイブ)、今後、新型コロナウイルス感染症の感染拡大状況によっては、適切なフォローが望まれるように思います。

影響3.面接欠席者の評価

面接を欠席した場合の評価はどうなるのでしょうか。

県教委の「新たな対応」では、面接欠席の場合についても「参考にできる資料を活用」するとされています。

ここで最も危惧されるのが、調査書の「関心・意欲・態度」の部分が「参考にできる資料」とされることです。

面接における各校共通の評価の観点には中学校での教科等に対する学習意欲が入っています。これについて「参考にできる資料」ということでまず思い浮かぶのが調査書の観点別評価です。実際に、クリエイティブスクールの選考では、「関心・意欲・態度」が得点化され、選考に用いられています。

しかし、この「関心・意欲・態度」は評価方法がオープンではないため、少なからぬ疑念を生んでいます。


【参考1】県教委「新たな対応」原文

面接特色検査等の「追検査」がない検査においても、発熱等の体調不良のある受検者は、同様に無理をせずに自宅で休養することとして、受検を見合わせるよう案内します。その場合は、中学校長から志願先の高等学校長に提出される、「事由報告書」により「資料の整わない者」(*)として、調査書や受検した他の検査の結果等、参考にできる資料を活用して適正に選考されます。

*「資料の整わない者」:志願先の高等学校で選考の資料とする調査書学力検査特色検査面接のうち、やむを得ない事情により資料の一部がない受検者

※引用文中の強調はカナガクによります。


【参考2】健康観察票

「健康観察票」の「参考様式3」(「令和3年度実施要領等取扱い」8ページ)によれば、学力検査面接(・特色検査)それぞれの検査当日に行う健康観察のとき、以下の5項目に1つでも当てはまらない項目がある受験生は、その日の検査を受けられません(※ただし、濃厚接触者でも別室受験可能な場合があります)。

  1. 37.5 度以上の発熱はない。
  2. 咳・のどの痛みを伴う風邪症状はない。
  3. 著しいだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)はない。
  4. 味覚や嗅覚の異常を感じない。
  5. 次の事項に該当するものはない。
    • ①新型コロナウイルス感染者又は濃厚接触者と認定され自宅待機となっている。
    • ②過去 14 日以内に日本政府から入国制限、または入国後の観察期間を必要とされる国、地域等への渡航もしくは当該在住者との濃厚接触があった。

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【参考3】「追検査」(2月 22 日)等フロー

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参考文献