「夏のすいせん図書読書感想文コンクール 2019」中学年の部の課題図書、『大好き! おじさん文庫』の読書感想文です。
分量は、題名・学校名・氏名を除き、400字詰め原稿用紙で5枚程度です(コンクールの規定は3枚以内)。
目次
『大好き! おじさん文庫』
広告
『大好き! おじさん文庫』を読んで
神奈川 花子
小さいころに『聖書』を読んだとき、とても印象に残ったお話があります。「まいごの羊のたとえ」というお話で、ルカによる福音書の第十五章、第一節から第七節までにあたります。
たとえによれば、一〇〇頭の羊を飼っている羊飼いは、そのなかの一頭が迷子になったなら、他の九十九頭をおいて一頭を探すといいます。そしてその一頭が見つかったら大いによろこぶというのです。
まだ小さかったわたしは、「なんておかしな羊飼いなのだろう!」と思いました。迷子にならなかった九十九頭からしてみれば、ずいぶんめいわくな話です。
「みんな」の幸せができるだけ大きくなるようにするためには、足手まといの人たちのことは考えないべきだと思っていました。大人たちはこの考えのことを「合理性」と呼びます。
合理的な行動をとっていれば、「みんな」が幸せになれる。だから、不合理な行動をとる人のことなど考えてはいられない――わたしはそう考えていました。
しかし、いま、この考えはまちがっていたと思います。
足手まといになってしまう人たちは、自分たちで好き好んで足手まといになっているわけではありません。わたしたちは決して、自分の思い通りに自分をあやつれるわけではありません。その意味で、わたしたちは運命にしたがって生きています。それを超えられると思うのは、思い上がりです。
わたしたちは自分の意思とは関係なく、だれかにとっての足手まといになります。そして、合理的に考えられて、見捨てられます。九十九頭の羊のことを考えれば、迷子になったたった一頭のわたしを、羊飼いが探しにきてくれることはないでしょう。
しかし、それでも、わたしは願わずにはいられません。だれかが助けにきてくれないだろうか、と。そのときに助けにきてくれるだれかのことを、わたしたちはヒーローと呼びます。
わたしたちにはヒーローが必要です。
羽黒第四小学校は、山形県鶴岡市の山あいにある小さな学校です。全校生徒は二十四人しかいません。一九七四年、この小学校には図書室と呼べるようなものがありませんでした。合理的に考えれば、生徒の人数が少ないのですから、本を買うためのお金がないのもあたりまえです。
しかし、そこに通う生徒たちは、自分たちで羽黒第四小学校を選んで入学したわけではありません。
そんなある日、学校に、一通の手紙と千円札二枚とが届きました。「毎月、本代を送ります」というのです。差し出し人の名前はありません。次の月にも、そのまた次の月にも、たしかに手紙とお金が届きました。校長先生たちはそのお金で本を買い、図書室を整えていきました。学校のみんなは、買った本を「おじさん文庫」と名づけ、夢中になって読みました。手紙と本代とは、二〇一六年、統合によって羽黒第四小学校がなくなるまでずっと送られ続けました。
生徒が二十四人しかいない小さな小学校にりっぱな図書室を作るのは、合理的ではありません。しかし、そこに通う生徒たちが図鑑もSFも楽しめなくていいわけではありません。
おじさんは、たった一人で、名前も明かさずに、羽黒第四小学校の子たちのために手紙とお金とを送り続けました。「合理性」のあみからもれた生徒たちに手をさしのべることを決意し、それを四十二年間にわたって続けたました。おじさんは、まちがいなく子どもたちのヒーローです。
ブレヒトのお芝居「ガリレイの生涯」には、「ヒーローを必要とする国は不幸だ」という有名なセリフが出てきます。ほんとうは、おじさんのようなヒーローを必要としないのがベストです。
ヒーローがいなくてもみんなが(ほんとうに、みんなが!)幸せになれるように、大人たちもあきらめてはいないはずです。大人たちも、自分たちの「合理性」が十分ではないことを知っています。だから、その「合理性」がより良いものとなるように、毎日いろいろなことを考えて、ためしているはずです。
それでも、やはり、いつまでも「合理性」は不十分なままでしょう。わたしたちが大人になったときにも、不十分なままでしょう。だから、「おじさん」たちにたよらなくてもいい社会をつくるために、わたしたちも覚悟を決めておくべきです。
わたしも、まずは、九十九頭の羊をおいてでも一頭の羊をあきらめない「あきらめの悪さ」あたりから、身につけていきたいと思います。
参考
課題図書
課題図書 2019 夏のすいせん図書読書感想文コンクール
https://kanagaku.com/archives/27168
その他
日本郵便,「書留」, https://www.post.japanpost.jp/service/fuka_service/kakitome/ , 2019 年7月 26 日閲覧.
現金……を内容とするものは、現金封筒(売価21円)を使用し、必ず現金書留としてください