『もうひとつの屋久島から――世界遺産の森が伝えたいこと』の読書感想文です。
分量は、題名・学校名・氏名を除き、400字詰め原稿用紙で3枚ちょうどです。
目次
『もうひとつの屋久島から
――世界遺産の森が伝えたいこと』
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『もうひとつの屋久島から』を読んで
神奈川 太郎
武田さんはこの本を通じて、屋久島の自然のすばらしさを伝えています。そしてそのすばらしい自然が伐採や観光客によってどれだけ痛めつけられてきたかということを悲しんでいます。武田さんにとって、屋久島の自然は、何よりも大切な宝物なのでしょう。
しかし、屋久島の人たちにとって、その自然は自分たちの生活を支える資源でもありました。屋久島の木材を利用した産業で日々の暮らしを送っていた人たちがたくさんいました。彼らのことを、武田さんはどう考えているのでしょうか。
すばらしい自然を未来に残していくことはもちろん大切です。しかし、だからといって、目の前にいるひとりひとりの人たちのことを軽く考えてはいけません。武田さんが「屋久島住民の生活を守る会」について書くときの書き方などに、私は強い反発を感じました。
頭がいい人たちは、少なくとも私よりも、ずっと未来のことまで考えているようです。たとえばフランスのマクロン大統領は、地球温暖化問題への対策として、自動車の燃料に税金をかけようとしました。しかしこれは結局、自動車の運転を仕事としている人たちの反対によって見送られました。私たちの子どもや孫たちはきっと、マクロン大統領に反対した人たちのことを非難するのでしょう。
『もうひとつの屋久島から』の武田さんには、マクロン大統領と同じようなところがあります。つまり、頭がいいところがあります。「屋久島住民の生活を守る会」について知ったとき、武田さんは考えました。
「貴重な原生林を切り続ければ、いずれなくなるのは目に見えていた。そのときはいいけれど、森が切りつくされたら、林業で暮らしている人たちは、それこそ、自分たちの仕事がなくなってしまう」
本当に「住民の生活を守る」のであれば、いまの暮らしをあきらめるべきだ。きっと、正しい考えなのでしょう。
しかし、将来のために「いま」を差し出せる人ばかりではありません。
たとえば、土手のわだちにフナがはねていたとしましょう。すぐに水をかけてあげなければ死んでしまいます。そのフナに対して
「あとでたくさん水をあげるから、いまはガマンしなさい」
などと言ったら、あまりにざんこくではありませんか。
フランスの新聞は、マクロン大統領に反対した人たちを取材して、こう書きました。
「エリートが地球の終わりを語る時、僕たちは月末に苦しむ」
武田さんや、武田さんのような頭のいい人たちが私たちの心をつかむためには、もっと目の前のひとりひとりに寄りそわなければなりません。もしそうできないのであれば、頭のいい人たちは支持を集められず、力を持つことができず、屋久島も地球も守り続けられないでしょう。
参考
課題図書
青少年読書感想文全国コンクール 2019 課題図書が発表
https://kanagaku.com/archives/26628
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世界自然遺産・屋久島在住のジャーナリストが責任編集。独自に取材したニュースに加えて、朝日新聞鹿児島版の記事も配信しています。情報提供は屋久島ポスト編集部([email protected])へ。