『僕は上手にしゃべれない』読書感想文


『僕は上手にしゃべれない』読書感想文です。

分量は、題名・学校名・氏名を含め、400字詰め原稿用紙で4枚程度です。


僕は上手にしゃべれない

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『僕は上手にしゃべれない』を読んで

神奈川 太郎

 『僕は上手にしゃべれない』は「ハーレム物のライトノベル」である。この本に関する私の感想は、すべてここに収束する。

 作者と読者との間でジャンルに関する合意が形成されるのは、物語が始まってすぐ、椎名美雪先生が登場するところにおいてだ。

 先生は「まだ二十代に見える、若い女の先生」だ。「ぞんざいなしゃべりかたをする先生だった。声も女性にしては少しハスキーで、髪も短めだ」。彼女のしゃべり方は例えばこんな感じだ。

 「それとあのあと席替えをした。くじ引きで決めて、柏崎のくじは私が引いたんだが、目が悪くて前の席がいいとか希望あったか?」

 話し言葉で「だが」という人は、ふつういないだろう。

 「じゃあ明日から、お前の席は窓側から二列目の一番後ろだ。今日の席とまちがわんようにな」

 「まちがわんようにな」などと話す女性は、サブカルチャーの世界にしか存在しない。彼女の登場により、読者はこれがライトノベルであることを知るのである。

 ライトノベルで最も大切なのは、魅力的なヒロインだ。『僕は上手にしゃべれない』のメインヒロイン、古部加耶を見てみよう。

 加耶の席は「ぼく」の「左どなり、窓際の一番後ろ」。この席の位置からだけでも、彼女がメインヒロインであることが分かる。彼女は「横顔だけでもはっきりとわかるほどに綺麗な顔立ち」をしていて、「真っ黒な髪は背中のまんなかくらいまでの長さ」。「まつ毛の長い涼やかな瞳」をしている。「目も鼻も口もどこも整っている。そのせいか全体で見るとどこか無機質な感じがして、少し人形っぽい」。

 加耶の魅力がこれでもかと書かれる。ヒロインを重視するライトノベルでは、とても大切なことだ。

 サブヒロインにも手を抜いていない。柏崎遥、主人公の姉も、その内面を中心に綿密に描き込まれている。「気が強くて、おせっかいで、でもやさしい姉。言葉のうまく出ない僕をたぶん一番に心配している人」。容姿についてはそこまで書かれていないが、「大きな目」をしているという。加耶と同じような美少女なのだろうと容易に想像できる。

 主人公の悠太は、椎名先生、加耶、そして姉の遥の三人から、絶対に揺るがない愛を受け続ける。

 主人公のことが好きだという気持ちが「絶対に揺るがない」ことへの信頼は、『僕は上手にしゃべれない』を読み進める上で重要なポイントだ。特に、加耶が絶対に悠太を嫌わないだろうという安心感は、「第四章 暗転」・「第五章 もう君としゃべりたくない」で作品世界のディープな部分に潜るときに手放せない命綱だ。その命綱があるからこそ、踏み込んだ感情描写が苦にならない。

 なぜ作品を読んでいる途中でヒロインたちの愛が「絶対に揺るがない」と分かるのか。それは、ジャンルへの信頼があるからだ。恋愛シミュレーションゲームにルーツのひとつを持つ「ハーレム物のライトノベル」では、ヒロインたちが主人公のことを嫌いになるはずがない。だから、加耶は絶対に悠太を見捨てない。

 きっと彼は物語が終わった後も、ヒロインたちに守られ愛される作品空間のなかで、幸せに暮らしていくに違いない。

 しかしそれにしても、自身も吃音症の作者が吃音症の主人公をそのような世界で幸せにしたということは、現実世界で吃音者が取り巻かれる状況の厳しさを浮き彫りにしてはいないだろうか。非現実的な「ハーレム物のライトノベル」世界のなかに、作者は吃音者の幸せを描いた。その裏側にあるものに、思いを巡らせずにはいられない。


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