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『空へ』(いとうみく)読書感想文例

いとうみく『空へ』読書感想文例です。

分量は、題名・学校名・氏名を除き、400字詰め原稿用紙で3枚ぴったりです。

空へ

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『空へ』を読んで

神奈川 花子

 私は『空へ』を読んで、

 「ああ、いとうみくさんらしい作品だなあ」

 と思いました。

 『空へ』は、短い六つのお話が連なった一冊です。それぞれ「おかゆ」・「水切り」・「くちば色」・「いつか」・「兄弟」・「神輿」とタイトルが付けられています。お話どうしのつながりはゆるやかで、特に「水切り」から「兄弟」までは、ひとつひとつの短編として読むこともできそうです。

 どのお話にも言えることは、福祉がテーマになっているということと、暗いタッチで描かれていて、まるで閉じ込められているような暗い気分にさせられるということです。この感じが、私には「いとうみくさんらしい」と感じられます。

 六つのお話を細かく見ていくと、「おかゆ」がまずプロローグ。主人公の陽介と、彼がお父さんを亡くして困っている様子が描かれます。「水切り」はシュウくんのお父さんのDVのお話。「くちば色」は陽介のお母さんのお話で、働くシングルマザーのお話。「いつか」は万引き、「兄弟」はいじめのお話で、最後の「神輿」がエピローグとなります。

 どのお話も暗いです。「おしりかじり虫」や「上戸彩」といった言葉を使っても、その暗さはなくなりません。なぜこんなに暗いのかといえば、それぞれのお話で起こっている問題が、本当は解決していないからです。

 陽介のお父さんは生き返らないし、シュウのお父さんのDVはなくなりませんでした。陽介のお母さんは以前のお母さんには戻りませんし、西宮さんに万引きをさせた心の穴が埋まることもありません。あっちゃんのお兄さんへのいじめがなくなることもありませんでした。

 悲しい問題が、変えてしまったのです。すべてがもう戻れない変わり方をしてしまったのです。

 いとうみくさんは、これらの問題から登場人物たちを守ります。それぞれの気持ちの持ち方で。地域のつながりで。他の人から受ける親切で。あるいは、伝統行事などで……。しかしどれも、問題を解決するものではありません。これらはすべて、病気を治す薬ではなく、症状を和らげる薬にすぎません。

 これらはまた、あることをあてにできる薬ですらありません。強い人間ばかりではないし、不親切な人は多いのです。地域や伝統が、いつも私たちを支えてくれるとは限りません。特に、登場人物の強さは、私にとって辛いものでした。なぜなら、私は弱いから……。

 悲しい問題をまったく知らずに、幸せに生きていく人たちもいます。そういう人たちと不幸な人たちとの差は、あまりにも大きいです。登場人物はみんなお利口さんですが、むしろホラー映画ように、もっと暴れて、バッドエンドへと突っ走ってほしかったです。その方が、まだ救いようがあるような気がしました。


参考

夏のすいせん図書読書感想文コンクール2018 高学年課題図書


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