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『青空トランペット』読書感想文

『青空トランペット』読書感想文です。

分量は、題名・学校名・氏名を含め、400字詰め原稿用紙で3枚程度です。


青空トランペット

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『青空トランペット』を読んで

神奈川 花子

 『青空トランペット』は、吉野万理子さんが小学生向けに書いた物語です。

 私が吉野さんの本を読んだのは、これが二冊目でした。一冊目は『いい人ランキング』で、とてもおもしろく読んだことを覚えています。『青空トランペット』もきっとおもしろいはずだ。そう思って読み始めた私の期待は、最後に本を閉じたとき、豊かな満足感へと変わっていました。吉野さんのような素晴らしい作家さんが、私と同じ横浜にお住まいだなんて!

 『青空トランペット』は、プロのシェフが作ったお子様カレーです。お子様向けなので甘口です。決定的な破局が訪れることもなければ、恐ろしい悪者も出てきません。安心して読むことができます。

 しかしそれでいて、読者を決して退屈させないのがシェフの腕の見せ所です。良い具材を見定め、おいしく味付けしていきます。お子様用に細かく、食べやすくカットされてはいても、そのうまみを楽しみながらページをめくっていくことができます。

 とりわけ私が好きだったのが、建太郎のかーちゃんが考え方を変えた事件でした。

 建太郎のかーちゃんはずっと、「勝ち運は、大事にすれば一生続く」と信じていました。「運にめぐまれているから……努力さえすれば一生うまくいく」と思いこんでいました。

 ところがある日、家に入っていたどろぼうがつかまります。そのどろぼうは、なんと建太郎の家の合い鍵を持っていて、毎週かーちゃんから五千円を盗んでいました。毎週財布からお金がなくなっていることに気付いていたかーちゃんですが、まさか自分の家にそんなどろぼうが通ってきているとは思いません。ずっと建太郎に疑いの目を向けていました。それが、実はどろぼうだった……。

 かーちゃんの思いはグラつきます。

 自分の運を信じ、成功を夢見て努力してきた人が、運に見放されたと感じたときの様子が、とてもよく描かれていると思いました。

 物語は二〇一六年の横浜ベイスターズの活躍と共に進みます。その本筋から大きく外れずに、それでいて様々なエピソードが盛り込まれた物語は、どっしりと安定していて、それでいて小技も効いたものでした。

 球団や選手などの名前が、次から次へと本当の名前で出てくるのもおもしろかったです。野球が好きな子たちにはたまらないでしょう。本当の名前になっていなかったのは「科学部の高校生たちが、ロボットコンテストの全国大会に出てる」という「湘明学園」だけだったのではないでしょうか。

 挿し絵も物語の雰囲気に合っていて、全体の長さもちょうどよいです。私の、この夏オススメの一冊となりました。


参考

『空へ』(いとうみく)読書感想文例


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