『わたしがいどんだ戦い 1939年』読書感想文


わたしがいどんだ戦い 1939年読書感想文です。

分量は、題名・学校名・氏名を除き、400字詰め原稿用紙で5枚程度です。


わたしがいどんだ戦い 1939年

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『わたしがいどんだ戦い 1939年』を読んで

神奈川 太郎

 『わたしがいどんだ戦い一九三九年』を読み終えたとき、私は本を壁に叩きつけた。

 「何だ、この終わり方は!?」

 ――この本を読み始めたとき、私は安心していたのだ。

 「良かった。戦争の悲惨さをこまごまと書いた小説ではなかった」

 と。読書感想文の課題図書として読まされる本の中には、その類の本が多い。そうした本が苦手な私にとって、『わたしがいどんだ戦い』の読み始めは、ホッと一息つけるものだった。

 考えてもみれば、私は表紙を見た時点でこのことに気付けたのかもしれない。つまり、これが「普通の」戦争小説ではないということに。表紙には原題も印刷されていたのだ。『The War That Saved My Life』。直訳すれば『私の命を救った戦争』といったところだろうか。戦争の悲惨さをひたすらに訴え続けたいのなら、このタイトルにはしないだろう。

 読み始めてしばらくして、

 「ああ、これはおもしろいかもしれない」

 と思い始めた。これは、エイダ、ジェイミー、スーザンという不完全な三人が疑似家族を作る物語だ。そして、その「家庭生活」を通じて、各々が心の傷から立ち直っていく物語だ。そうした物語ならば、私の大好物だ。

 登場人物が不完全である描写が、どれも秀逸であるように思われた。夜尿症のジェイミーや、一日の大半をぼうっとして過ごすスーザン、さらには、ソールトン婦人やマクファーソン大佐といった脇役に至るまで、その不完全さが物語を駆動させていた。なかでも、主人公である被虐児童エイダが抱える欠落は、最も素晴らしく描かれていた。

 エイダに残る虐待の傷跡こそ、この物語の核だ。

 虐待を受けた者は、振り上げられた手は必ず自分に振り下ろされるものと思う。だから、目の前の誰かが手を上げると、反射的に防御姿勢をとる。また、親に世話をされていない者は、他者に世話をされるということがどういうことなのか分からない。差し伸べられた手をどう取ればいいか分からない。苦しむことが日常となっていた者は、楽しむことに後ろめたい気持ちを抱いてしまう。「みんなで集まって楽しくお祝いしようって話は、なんだか恐ろしい」。

 虐待を受けた子どもというのは、きっとこうだろうと、頷くばかりだった。

 私が「おもしろい」と感じることについて雲行きが怪しくなってきたのは、終盤に差し掛かろうかという頃、一九三九年も終わろうかという頃だった。

 まず、いつまでたってもエイダの虐待の跡が消えていかない。足の手術の話も一向に進まない。スーザンの親友だったベッキーについても、新しい情報が出てこない。要するに、物語が間延びしているように思えてきた。

 張られた伏線はすべて回収すべきだし、登場人物のそれぞれには何らかの「解決」が与えられるべきだ。だから私は待った。マクファーソン大佐がスティーブンに助けられ、安らかで誇りある最期を迎えるのを。スターソン婦人が上流階級の暮らしを諦め、それについて感情を吐露するのを。そして何より、手術によって内反足を克服したエイダが、虐待を行った母親に対して復讐または決別を果たすのを。

 しかし、物語は一向に進まない。挙句の果てにはエイダとジェイミーとが母親の所に戻り、再び虐待される生活に戻ろうかという始末だ。

 不安――というよりも、もはや不満でいっぱいになった私に示された結末は、以下のようなものだった。

 母親が暮らすロンドンに戻ったエイダとジェイミーとは、ドイツ軍による空爆を受ける。その混乱の中、二人は母親のアパートを抜け出した。空爆を切り抜けると、目の前にはスーザンがいた。彼女は二人を迎えに来たのだ。エイダ、ジェイミー、スーザンの三人は村に帰る。すると、なんと三人が暮らしていたスーザンの家がドイツ軍の空爆で失われていた。スーザンは二人を迎えに行ったことで命を救われたのだ。ありがとうエイダ、ジェイミー……。

 これで終わりだということに納得できる人が、世界に何人いるのだろうか。最終盤、せっかくロンドンに空爆があったのだから、作者はそこで母親を殺しておくべきだったのではないだろうか(復讐譚の完成のためには。現実世界において、虐待を行ったものが報いを受けるべきだという意味ではなく)。そこまで行かずとも、せめて内反足の手術でエイダの足を治してやるぐらいは、どこかでできなかったのだろうか。

 この本は様々な賞を受賞しているそうだから、きっと優れた本なのだろう。いつかその良さを感じられるようになる頃、また読み返してみたいと思う。


参考


三辺 律子,「戦争と、自分の戦い、ふたつを乗りこえた少女の物語」, https://shimirubon.jp/reviews/1687964 , 2018年2月28日.




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