2024 年 12 月 22 日(日)に行われた神奈川大学給費生試験 2025 国語 大問1(古文)の解答速報(問1~問5)です。
作成はカナガク。専門性が高いわけではないため、誤りを含む場合があります。
以下では理数個別指導学院が作成した note の無料公開部分と同じ部分を扱っています。当該 note を合わせてご確認ください。
※夢想国師 著 川瀬一馬 校注・現代語訳,『夢中問答集』,2000 年8月 10 日 第1刷発行,講談社学術文庫(の、主に 57 ~ 61, 300 ~ 303 ページ、上巻 一〇 有力の檀那の祈祷 附=唐人医智光)などを参考にしています。
目次
夢想国師(夢窓疎石)『夢中問答集』
問一:③ 並みひととおりでない
『Key & Point』225 ページによれば、
「なのめ」は完璧でない、ちょっといい加減な、普通のありさまを言い表します。
否定形の「なのめならず」(並々ではない)もよくきかれます。
おぼろけなり/おぼろけならず
なお、『Key & Point』226 ページには「おぼろけなり」が採録されており、こちらは、
1の「並一通りだ」がもともとの意味です。ところが、多く否定表現とともに使われるところから、この語そのものに否定のニュアンスが生じて「おぼろけならず」と同じ意味(2)でも使われるようになりました。
なのめなり/なのめならず
「なのめなり」についても、「なのめならず」と同じ意味で使われることがあります。三省堂『古語辞典 修訂版』1990 年,373 ページに挙げられた例は以下。
「帝なのめにおぼし召し、その時の御恩賞に、奥陸奥の国を賜はって」[謡曲・烏帽子折]
問二:② この方法であってはお祈りになりようがないと思われる
傍線部②「この式にてはいかでか御祈りにもなるべきやと覚えたり」の解釈を問う問題。
講談社学術文庫『夢中問答集』301 ページの現代語訳が
これ式ではとてもお祈りにはなりそうもないと思われた。
問三:③ 御祈祷を通じて仏の慈悲を霊験として示すことで、人々を悟りへ導くため。
傍線部③「古への大師高僧の、国家を祈り災厄を払ひ給ふ」とあるが、なぜそのようなことをするのか。
講談社学術文庫『夢中問答集』301 ページの、これに続く部分の現代語訳が
(災厄(わざわい)を払いなさる)ことは、これを一つの手段として、衆生を導いて、深く道を求める士(ひと)であることをはっきりさせてやろうというためである。
同 58 ページの脚注(七)によれば、「接引」とは「導く。引接」の意味。また、同じページの脚注(八)によれば、「大菩薩」とは「深く道を求める人」の意味。
ただし、今回の給費生試験の問題に付けられた注では、「大菩薩を証せしめむ」は、「大いなる慈悲の心をもって人々の悟りを開かせよう、という意味。」とされています。
問四
ⅰ[ 4 ]:③ 存続
波線部ⅰ「包み給へるによりて」
講談社学術文庫『夢中問答集』301 ページの現代語訳は「内に包蔵しておられるので」。
包み(マ四用)/給へ(ハ四尊補已)/る(存続・体)/に(原因)/より(ラ四用)/て(単純接続)
完了・存続の「り」の接続は「リカちゃんさみしい(サ未四已)」。
受身・尊敬の「る」は、「る」という形をとるのが終止形しかない(活用の型が下二型)ことからもおかしいと分かります。
ハ四尊 VS ハ下二謙
なお、『Key & Point』162 ~ 163 ページに「たまふ」ハ下二謙補の掲載があり、以下のように解説されています。
下二段活用の「たまふ」は謙譲語で、〔中略〕(1)会話や手紙文で用いられ、(2)ほとんどが動詞「思ふ」「見る」「聞く」「知る」につき、(3)終止形・命令形はまれ。
尊敬の「たまふ」との識別・主語判定(〔謙譲の「たまふ」であれば〕主語は「私」です)・訳語・敬意の対象(〔謙譲の「たまふ」であれば〕「会話の聞き手」です)など、さまざまな角度からきかれます。
ⅱ[ 5 ]:① 過去
波線部ⅱ「和合せし故に」
講談社学術文庫『夢中問答集』301 ページの現代語訳は「和合したので」。
和合せ(サ変未)/し(過去・体)/故(体言)/に(原因・理由)
過去の助動詞「き」は、カ変・サ変に対しては未然形接続となります。
「故」は「接続助詞的に用いられる。接続助詞『に』を伴う場合もある」(三省堂『古語辞典 修訂版』1990 年,525 ページ)。
ⅲ[ 6 ]:⑤ 尊敬
波線部ⅲ「仰せ出ださるれども」
「仰せ出だす」は「言ひ出だす」の尊敬語(三省堂『古語辞典 修訂版』1990 年,94 ページ)。
仰せ出ださ(サ四尊本未)/るれ(尊敬・已)/ども(逆確)
ただし、講談社学術文庫『夢中問答集』301 ページの現代語訳は「(特別な御祈祷だと言って、たまには施し物も下げ渡されると)口ぶれはあるが」となっています(敬意が訳されていません)。
前の部分との比較
◆ | A | 逆確 | B |
---|---|---|---|
古文 | 大法秘宝を行はるれ | ども、 | 供料ごときの御沙汰も、如法ならず。 |
古文 | とりわきたる御祈りとて、たまたま施物も下行あるべしと仰せ出ださるれ | ども、 | 大略は有名無実なり。 |
現代語訳 | 大法・秘宝を行われる | けれども、 | そのお供え物などのお手当も、きまりのようにはない。 |
現代語訳 | 特別な御祈祷だと言って、たまには施し物も下げ渡されると口ぶれはある | が、 | 大抵は有名無実である。 |
ⅳ[ 7 ]:⑦ 断定
波線部ⅳ「服し給へと申すなりと」
講談社学術文庫『夢中問答集』302 ページの現代語訳は「お飲みなさいとお勧めするのだ』と」。
「服す」は、三省堂『古語辞典 修訂版』1990 年,438 ページによれば、「呉音よみの語」で、サ変動詞。
漢字「服」の「フク」は音読みです。
服し(サ変用)/給へ(ハ四尊補命)/と(格助・引用)/申す(サ四謙本体)/なり(断定・終)/と(格助・引用)
ⅴ[ 8 ]:⑥ 使役
波線部ⅴ「覚果を証せしめむと」
講談社学術文庫『夢中問答集』303 ページの現代語訳は「悟りの果を証(あかし)させようと」。
覚果(体言)/を(格助・動作の対象)/証せ(サ変未)/しめ(使役・未)/む(意志・終)/と(格助・引用)
「覚果」には給費生試験の問題用紙の上で注が付きました。「悟り」。
問五:② a 和合せし故に b 成じき
- a「和合せし故に」の「和合す」は、サ変の複合動詞。
- b「成じき」の「成ず」は、サ変(三省堂『古語辞典 修訂版』1990 年,252 ページ)。
- c「合はせけるに」の「合はす」は、下二(三省堂『古語辞典 修訂版』1990 年,17 ページ)。サ下二のはずです。
- d「申しけり」の「申す」は、四(三省堂『古語辞典 修訂版』1990 年,460 ページ)。サ四のはずです。
春田裕之 編,『集中2週間完成 古典文法(高校初級編)』平成 27 年 10 月 20 日 43 版発行,日栄社 の7ページによれば、サ行変格活用は、
- 「す」「おはす」の二語だけだが、他の語に「す」が付いて複合動詞を多く作る。
- 複合動詞でザ行になっても、サ変とする。
となっています。同ページの大問4⑧は「ご覧ず」を、同書 10 ページは「心地す」「興ず」を、それぞれ出題しています。
この他、連語「かなしうす【愛しうす】」などもサ変です(春田裕之 編,『集中2週間完成 古文(高校初級編)』平成 28 年5月 20 日 88 版発行,日栄社,8~9ページで出題があります)。
参考文献
中野幸一 監修 池田修二・宮下拓三 著,『わかる・読める・解ける Key & Point 古文単語 330 三訂版』,2017 年9月 20 日 三訂版 初版 第1刷発行,いいずな書店.