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『二月の勝者』第 50 講「九月の布石」感想

『ビッグコミックスピリッツ』6月 10 日発売号に掲載された二月の勝者―絶対合格の教室―第 50 講「九月の布石」の感想です。


Rクラスの「できた」を

テストの手応えをたずねること

よく講師のなかに「テストの手応えはどうだった?」と聞く方がいますが、わたしの好みではありません。

子どもはきっと、

  • 「よかった」と言えばその場で相手は喜ぶだろうけれども、期待値が上がってしまう
  • 「よくなかった」と言えば相手をがっかりさせる

と思うでしょう。

テスト後は淡々と問題と自己採点結果とを把握し、授業にフィードバックしていけばよいのです。

子どもは大人を見ているのではないか

生徒さんによってはテスト後

「できた!」と言って
はしゃいでる

こともありますが、

  • 努力の結果として自分でそう思いたい
  • 大人を喜ばせたい

場合もあるでしょう。

言葉だけを受けとめて、裏にあるある種の痛々しさの可能性を考えつつ、「ああ、そうでしたか」などと言うようにしています。


周りも上がるから偏差値は上がらない?

黒木は佐倉に

夏以降は
6年生前半と大きく違い
ほぼ全員が
頑張るようになるので、
個人の学力が
上がったところで、
全体の学力も上がる。
よって偏差値も
良くて横ばい、
下がるのも普通。

と言います。

しかし、特にRクラス(非難関校受験クラス)については、必ずしもこの限りではないでしょう。

夏以降も成績は上がる

まず、夏以降「ほぼ全員が頑張るようになる」わけではないです。なかなか勉強に身が入らない受験生もいます。彼ら/彼女らを追い抜いていけば、偏差値は上がります。

また、たとえば小規模塾などで夏以降にカリキュラムが追い付いてくる場合にも同様です。

夏期講習は最後の土台作りであり、土台作りの段階では成績は上がらない。しかし土台がしっかりとした上に演習量が重なっていくと成績も上がってくる――といったこともあるでしょう。定期試験対策をせずに大きく戻って復習をしている公立中学生は、はじめは成績が上がりません。しかし土台がしっかりとしてくると飛躍的に伸びます。それと同じことが中学受験でも起こります。


いかに「辞めさせないか」

9月以降、個別指導塾は生徒をサピックスから転塾(Wスクールではなく)させようと狙います。サピックスの授業料が高額になるため、揺さぶりをかけやすいのでしょう。合格実績を稼ぐために、優秀な生徒をこの時期に転塾させることは大切です。全国学習塾協会の3カ月ルールを考えると、夏休み明けには転塾(とまではいかなくても、せめてWスクールで通塾)させたいところです。営業トークのスクリプトには「お子様の志望校対策に絞った効率のよい学習をしていきましょう」といった文言が並ぶことでしょう。

これをサピックス側からしてみれば「いかに『辞めさせないか』」が大切――ということになります。


成績が悪い子が泣く

成績が元々
悪い子が、
あらためて
悪いことに
泣く。
笑えてくるほど最高です!

という黒木のセリフには、かすかな心の揺れと大きな反感とを感じます。

授業をまじめに受けず、宿題もせず、塾に遊びに来ているような生徒さんがいます。特に大規模教場の場合には、そうした子がどうしても出てきます。彼ら/彼女らがまじめに勉強している生徒さんに悪影響を及ぼしているのを見ていると、彼ら/彼女らが低い成績に泣いているのは自業自得、「自己責任」ではないかと心が揺れます。

しかし、大人でも子どもでも、常に合理的に最適な行動をとれるわけではありません。自分ではどうしようもない部分で成績が低迷してしまうこともあるでしょう。勉強をしない子が低い成績に泣いているのを見て笑うというのは、想像力や思いやりを欠く態度です。

彼ら/彼女らを見下すことで自分自身の勉強の推進力を得る作戦もあるでしょう。しかしそうした心の持ち方は、あくまで一時的なものに留めないと、自分自身の一生を損なうものになります。