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『いい人ランキング』読書感想文例

『いい人ランキング』読書感想文です。

分量は、題名・学校名・氏名を除き、400字詰め原稿用紙で3枚ちょうどです。


いい人ランキング

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『いい人ランキング』を読んで

神奈川 太郎

 『いい人ランキング』はなぜこれ程までにおもしろいのだろうか。

 まずタイトルが良い。書店でこのタイトルを見たら、手を伸ばさずにはいられない。

 そして構成が良い。決して短い話ではないのに、全体が見通され、張り巡らされた伏線がすべて回収されていく。

 母親の再婚、再婚相手の裕福さ、性格の違う妹、「王子様」の登場、嫌な二人の同級生、そして「いい人ランキング」……。こんなに手を広げて大丈夫かと心配になるぐらいに広げられた状況設定が、見事にすべて、ひとつに収斂していく。

 構成が良いから展開が速い。筆の運びにまったく迷いがない。物語の組み立てに必要なパーツがすべて揃っていて、不要なぜい肉が削ぎ落されている。しかもそれでいて、骨と皮ばかりのやせぎすでもない。理想的なプロポーションを保っている。

 章と章とのつなぎ方も、うなるほどうまい。フックが効いている。もしこれが連載だったなら、最後まで追いかけずにはいられないだろう。

 圭機というキャラクターも抜群に魅力的だ。「悪い人ぶってるけど『いい人』」というのは典型的なヒーロー像のひとつだが、それが完璧にはまっている。白い毛皮の遺伝子を持っていることを自覚し、その上で「生き抜いてみせる」とゲームに挑む姿。その姿はあまりにも凛々しい。過去、彼が敗れるシーンも、本当に格好良すぎる。もう「キャー!」としか言い表せない。

 これほどおもしろい本を読んだのは久しぶりだと思える。それ程までに『いい人ランキング』はおもしろい本だった。

 十一歳の春、圭機は新しいゲームを始めた。私たちは、どんなゲームを生きているだろう。

 私たちは、少なくとも私は、氷河期の遺伝子を持っていると思う。しかし、そんなことはおくびにも出さず生きている。そんな遺伝子など、存在すら知らないかのように生きている。周囲に合わせ、シマウマのように温厚に生きている。それは、いったい何のためなのだろう。きっと「生き抜いてみせる」ためなのだろう。

 しかし、このゲームはきつい。早く終わらないかと思うことすらある。ゲームの終わりは解放であり、安らぎの訪れだ。ゲーム・エンドのそのときには、「ようやく休めるときが来た」と思わずにいられないだろう。気を張り続けるのは本当にきつい。誰かに泣きつきたいときもある。どんなゲームにも、休憩時間が必要だ。その胸に身を投げ出せる誰かがいてくれたら……と切実に思うことがある。

 圭機もきっと同じ気持ちなのではないか。だからこそ、桃に

 「もしも、いい人たちがおれのまわりに居続けてくれたら、あるいは、な」

 と漏らしたのだろう。圭機たちの幸せを祈るばかりである。


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