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『風船教室』(吉野万理子)読書感想文例 小学校高学年

「神奈川県 夏のすいせん図書読書感想文コンクール」高学年の部の課題図書、吉野万理子の『風船教室』の読書感想文例です。

分量は400字詰め原稿用紙で3枚を埋めるのにちょうどいいものになっています。夏休みの宿題で困ったときなど、参考になさってください。

『風船日記』を読んで

神奈川 太郎

 この物語のテーマは、もう会うことはないと切り捨てた友だちと再会するときの、あの嫌な感じです。

 小学6年生の時生くんは物語のはじめで、風船が心を持つファンタジーの世界へと旅立ちます。はじめは新しい世界に慣れず、前の学校の友だちと電話で話してはホッとしているという有様でした。しかしそんな彼も、だんだんとそこで生きることを受け入れていきます。

 時生くんは新しい世界で生きるために、昔の友だちにもう電話をかけてこないようにと暗に伝えました。ずっとうしろを振り返り、そこに向けて呼びかけ続けていても、私たちは前に進めません。時生くんは今という時だけを見つめて生きようと、悲しい決心を固めたのです。

 しかし、ここに問題が出てきます。時生くんが進んだのは本物の世界ではなく、風船が子どもたちを見守るファンタジーの世界でした。多くの子供たちが少しの間だけ旅行に来て、そして帰って行ってしまうようなところでした。つまり、そこは時生くんがずっといられるところではなかったのです。アリスが迷い込んだ鏡の中の国、ドロシーが飛ばされていったオズの国のように、いつかは現実の世界に戻らなければならない場所でした。風船は、そこが夢の世界であることを表すシンボルです。

 時生くんは結局、風船たちに別れを告げて元の学校に戻り、そこで昔の友だちに再会します。自分が一度は捨て去った翔太くんにです。このときの時生くんの気持ちこそ、このお話で私たちの心にいちばん大きな印象を残すものでしょう。夢の世界から帰ってきて味わう苦さ。『風船物語』は、そんな苦さを通して時生くんが成長する物語です。

 中学生になって、時生くんと翔太くんとはずっと仲良しでいるでしょうか。きっと、ずっとべったりとくっついてはいないでしょう。新しい、しかも本当の世界のなかで、それぞれ新しい友だちを作ることでしょう。そして、ふたりは少しずつ離れていくのではないでしょうか。

 しかし、時生くんには風船の世界に旅立って分かったことがひとつあります。それは、「さよなら」と「ずっとさよなら」とは違うということです。時生くんは一度は翔太くんを切り捨てようとしました。新しい世界でしっかりと生きていくためです。しかし、必要だったのはただ離れることであって、捨て去ることではありませんでした。

 中学生の時生くんはもう、前へと進みながらも、これまで自分が生きてきた時に、やさしく微笑みかけることができるようになっているのではないでしょうか。


参考

※ 読書感想文関連の記事一覧はカテゴリー「読書感想文」からご覧ください。

「神奈川県 夏のすいせん図書 読書感想文コンクール2015 課題図書」

「第61回 青少年読書感想文全国コンクール 課題図書」