8月26日(火)に発売された『サンデー毎日』2014年9月7日号に「本誌独自分析 わが子の学力がグングン伸びる中高一貫校」と題した記事が掲載されました。
目次
「わが子の学力がグングン伸びる中高一貫校」?
記事中では、中学入試において偏差値39以下であるにもかかわらず早慶上智に強い学校として横浜隼人中学校が取り上げられています(偏差値は日能研2015年予想R4)。「横浜隼人は最近、合格実績が伸びている注目の1校だ」と紹介されており、早慶上智なら「桐蔭学園、桐光学園、横浜隼人」と大きく書かれています。
記事によれば横浜隼人の2014年度入試大学合格実績は早慶上智23名であり、確かにこれを見ると隼人が「わが子の学力がグングン伸びる中高一貫校」であるように見えます。
しかしこの記事にはややミスリーディングな部分があるように思われます。
横浜隼人の実績は中学入学者によるものなのか
記事のタイトルは「わが子の学力がグングン伸びる中高一貫校」ですが、横浜隼人は主に高校募集で生徒を集めている学校です。したがって、学校全体の大学合格実績だけ見るのでは、必ずしも「中学から入学した偏差値39以下の生徒たちが成績を伸ばして、20名を超える早慶上智の合格を勝ち取った」とは断言できません。
実際に、隼人では高校募集で集まった多くの優秀な生徒たちが合格実績を引っ張っているように思われますので、
- 高校入学者比率
- 高校入試難度
の2点から、このことについて考えてみたいと思います。
高校入学者比率
声の教育社の『神奈川県高校受験案内』(P398)によれば、現在の横浜隼人高校の生徒数は1722名(男子955名、女子767名)で、「うち高入生約85%」となっています。隼人がいかに高校募集主体の学校であるかということが分かります。
ここではさらに横浜隼人中学校と高校のそれぞれについて、2014年度入試結果を見てみましょう。今春卒業生は7年前の入学者であり単純な比較はできませんが、高校入学者の多さを感じられるはずです。
はじめに中学入試からです。
横浜隼人中学校 2014年度入試結果
日程 | 日時 | 定員 | 応募 | 受験 | 合格 | 実質倍率 | 合格最低点 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
前期① | 2/1AM | 40 | 74 | 69 | 65 | 1.06 | 120/200 |
前期② | 2/1PM | 25 | 64 | 38 | 37 | 1.03 | 120/200 |
前期③ | 2/2AM | 25 | 94 | 21 | 20 | 1.05 | 120/200 |
前期④ | 2/2PM | 15 | 54 | 9 | 6 | 1.50 | 120/200 |
後期⑤ | 2/5 | 15 | 94 | 18 | 3 | 6.00 | 120/200 |
2014年度、横浜隼人中学校の合格者数は131名でした。
合格者の全員が入学するわけではないため、実際の横浜隼人中学生はさらに少なくなります。日能研が出している『中学受験のくらべる学校案内』(P295)によれば、2013年度の生徒数は
- 中1 男35名 女23名 /2クラス
- 中2 男43名 女20名 /2クラス
- 中3 男48名 女22名 /3クラス
でした。
一方で高校入試はどうだったのでしょうか。
横浜隼人高校 2014年度入試結果
学科 | 入試 | 定員 | 応募 | 受験 | 合格 | 実質倍率 |
---|---|---|---|---|---|---|
普通科 | 推薦 | 60 | 109 | 109 | 109 | 1.00 |
一般 | 130 | 1,799 | 1,793 | 1,790 | 1.00 | |
国際語科 | 推薦 | 15 | 41 | 41 | 41 | 1.00 |
一般 | 60 | 227 | 225 | 224 | 1.00 |
多くの受験者が公立高校との併願で出願をしているため、定員よりもはるかに多い合格者が出ています。実際に入学する子は合格者に比べてかなり少ないのですが、それでも中学入試とは規模が大きく異なることが分かります。
高校入試難度
高校は入試難度においても中学と差が見られます。
2014年度 一般推薦基準
横浜隼人の2014年度一般推薦基準は以下の通りでした。
- 普通科: 40/50
- 国際語科: 24/30 かつ2・3年の英8/10
※ 基準の分母50は2年5科+3年5科
※ 国際語科の分母30は2・3年の国社英
主な公立併願高校
こうした基準値から、市進の『高校受験ガイド』(P365)によれば、横浜隼人を併願とする場合の主な公立第一志望校は松陽、横浜平沼、横浜国際などとなっています。
また、声の教育社の『神奈川県高校受験案内』(P399)に掲載の併願パターンは以下の通りです。
- 挑戦校クラス
厚木、横浜緑ヶ丘、希望ヶ丘、光陵、大和、横浜国際 - 同等校クラス
市立桜丘、海老名、市立横浜商業(国)、座間、松陽、麻溝台 - 安全校クラス
大和西、湘南台、瀬谷、市立横浜商業(商)、金井、有馬
「挑戦校クラス」には県内旧学区トップ校の名前が並んでおり、隼人にいかにレベルの高い高校受験生が集まっているかということが分かります。
偏差値
偏差値も中学入試とはまったく異なります。各種模擬試験の合格可能性80%偏差値を並べてみましょう。
- W合格もぎ
特別選抜:66 特進:62 国際語:62 進学:59 - 教育開発出版 学力診断テスト
特別選抜:63 特進:60 国際語:58 進学:57 - 神奈川全県模試
特別選抜:62 特進:59 国際語:55 進学:54
近い偏差値帯(Wもぎ)で中学校が併設されている高校を挙げると、法政二(67)、日本大学・総進(66)、桐蔭学園・普(65)となっています。
この数字からも、横浜隼人がいかに高校受験に力を入れているかが分かります。
『サンデー毎日』2014年9月7日号誌上ではまるで横浜隼人中学校に偏差値39以下で入学した子たちがそのまま早慶上智に23名合格したかのように書かれていますが、そのなかには多くの高校入学生の実績が含まれているはずです。
おそらく校内では中学入学生と高校入学生とが切磋琢磨して学校全体のレベルを押し上げているのが実際でしょう。その意味で言えば隼人が「わが子の学力がグングン伸びる中高一貫校」と言えることは間違いありません。
しかし高校入学者の割合について触れられていないこと(加えて言うなら大学合格実績を単純に合格数で測っていて、大規模校に有利な内容になってしまっていること)は、この記事を読む際に注意しなければならないことであるように思われます。