神奈川新聞は4日、1面トップで
来春公立高入試 出題範囲
中3漢字など除外
県教委 休校長期化で公平性
と報じました(藤塚正人 記者)。
出題範囲についての報道を受け、中学3年生のなかには
「じゃあ、もう漢字と英単語は勉強しなくてもいいじゃん!」
と考え、学校の小テストなどに身が入らなくなりそうな方もいるかもしれません。しかし県教委の発表を読むと、実質的には中3漢字・英単語の勉強もしなければならないことが分かります。
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目次
各種報道は簡略化の傾向
冒頭に挙げた神奈川新聞の記事では、まずリード文で
中学3年で新たに学ぶ漢字や英単語などを除外。
とし、本文でも
漢字と英単語は、教科書で学習順序が異なるため公平性の観点から、3年生で新たに学習するものは除く。
としています。
しかし、これは内容が簡略化されており、ややミスリードです。
中3漢字・英単語除外は一部問題のみ
記事の左上の表「来春の県内公立高入試 出題範囲から除く内容」が、県教委発表をより正確に伝えるもので、そこでは国語と英語とについて、それぞれ
- 国語:漢字を問う問題において中3で新たに学習する漢字
- 英語:英単語を問う問題において中3で新たに学習する英単語
を出題範囲から除くと報じられています(強調はカナガクによります)。
ここでポイントとなるのは「漢字を問う問題において」「英単語を問う問題において」という部分です。
あくまでも中3漢字・英単語が出題されないのは「漢字を問う問題」「英単語を問う問題」においてだけです。それ以外の問題については
- 国語の問題文に中学校第3学年で新たに学習する漢字が含まれる場合は、その漢字にはふりがなを表記し、
- 外国語(英語)の問題文に中学校第3学年で新たに学習する英単語が含まれる場合は、その英単語には、注釈を表記
するという形で、中3漢字・英単語が登場します(※県教委発表)。
漢字や英単語の出題が限定されるのが一部の問題だけ――ということに関しては、慧真館の岸本先生のツイートが特に的確です。
神奈川県公立高校入試の出題範囲
・英語…問2に中3の英単語を出題しない
・数学…標本調査削除
・国語…問1で中3の漢字は出題しない
・社会…私たちと国際社会の諸課題削除
・理科…科学技術と人間、自然と人間削除神奈川Goodjob!出題傾向にほぼ影響はないだろう。https://t.co/tLcbHmzBJp
— りんごくん@慧真館 (@keishinkan) July 3, 2020
※ティーシャルの坂本諒先生は、英語は問1の一部にも影響するだろうと指摘しています(2020 年7月4日 22:45 追記)。
なぜ中3漢字・英単語も実質必要なのか
漢字
こう書くと、中3生のなかからは
「ふりがながつくのなら、やっぱり勉強しなくてもよくない?」
という声も聞こえてきそうです。
しかし、漢字の勉強はただ新しい漢字を書けるようになったりすることだけを目指すものではありません。新しい漢字の学習を通じて、新しい熟語や言葉、概念などを身につけていくことをも目指すものです。ふりがながついた熟語を見ても、その意味を学んでいなければ、文章を読む際の大きなビハインドとなることでしょう。
たとえば教育出版の『伝え合う言葉 中学国語』では「媒介」の「媒」を中3で新しく習います(85 ページ。内山節「歴史は失われた過去か」)。来春の入試でもし「媒介」が問題文中に出てきた場合には「ばい介」とふりがなが付けられるわけですが、「媒」の字を学んでいなければ「ばい介」の意味を取れないケースが多いでしょう。
中3受験生は実質的に、新出漢字を勉強しなければなりません。
英単語
英単語についても受験生のなかから
「注釈がつくのなら、やっぱり勉強しなくてもよくない?」
という声が聞こえてきそうです。
しかし、たとえば学校図書の『TOTAL ENGLISH』では already という英単語を中3で新しく習います(26 ページ。Lesson 2-A “Junior High School Club Life”)。来春の入試でもし already が問題文中に出てきた場合には「もう,既に」と注釈がつけられるわけですが、already を学んでいなければ、それを見て現在完了形「完了・結果」の用法を(必要に応じ)連想することができないでしょう。
また、限られた試験時間のなかで、いちいち注釈を参照している時間が惜しいということも考えられます。過去の横浜翠嵐高校の特色検査では問題の最後に「単語集」があって、長文中に知らない単語が出てきたら「単語集」を見ながら英文を読み進めたのですが、問題文と「単語集」との往復にかける時間がかかればかかるほど不利になったものでした。
中3受験生は実質的に、新出英単語も勉強しなければなりません。
【参考】岸本崇(慧真館),「H28年度横浜翠嵐高校特色検査研究と分析:県下No.1の名にふさわしい圧倒的な難易度と質。」,https://keishinkan.jp/post-4923,2016 年5月 13 日.