「併設型」は既存の高校のレベルをなかなか超えられない!
と小見出しをつけた記事のなかで、来春開校する横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校附属中学校(以下サイフロ附属)の大学合格実績があまり伸びないのではないかと予想しています。
この予想ははたして妥当なのでしょうか。
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目次
サイフロ附属の先生方には、中高一貫教育への理解が足りない?
記事(23ページ)によれば、
〔サイフロ附属は〕中学からは男女各40名の2クラス募集で、高校募集が主体の併設型となります。
もともと、中高一貫教育の経験のない高校の教員集団に対して、高校募集をそのまま継続すると、中高一貫教育を理解することなく、これまでの高校からの教育をなぞります。これが結果として、併設型が伸びない最大の要因となります。ちなみに、2015年春の大学合格実績で……横浜サイエンスフロンティア高校は東大現役0(総数0)名です。……教育の内容はにぎやかなのですが、教育が充実し、大学実績が既存の高校のレベルを上回る可能性は低いでしょう。
6年一貫のカリキュラムが組めないのは不利?
記事(22ページ)では、カリキュラムについても難点が述べられています。
併設型は、高入生の存在が無視できないため〔、カリキュラムは〕現実は、中学3年+高校3年の括りに縛られます。その結果、大学実績などでは、併設型は既存の高校のレベルをなかなか超えません。
その他
この他、教育内容の柔軟性や、先生方の異動、入試についても触れられています。
「リーダーカ、国際理解教育」など、流行の教育要素を盛り込むことも多いのですが、それも学校や各先生たちが主体的に決めたことではなく、学校とは別の行政で決めたことなので、運用時に柔軟な変更があまりうまくできません。このあたりは融通の効く私学とは大きく違います。
私学と公立中高一貫校の最大の違いは先生の異動です。卒業後に母校を訪ね、教わった先生方に深い相談ができるのが私学の大きな魅力ですが、公立ではこれは無理です。
公立中高一貫校の適性検査は、それ専用の特別な準備が早期から必要なわけではなく、国語・算数・社会・理科などでしっかり学び、知識の運用力をつけておけば充分対応できます。
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『進学レーダー』の記事の妥当性は
さて、『進学レーダー』の指摘は、はたして妥当なものなのでしょうか。
中高一貫教育への理解
誌面では2015年春のサイフロの大学合格実績が伸びなかったと書かれていますが、これは2015年度入試がいわば「エアポケット」のようになったことに注目したものです。
2016年度入試で、サイフロは東大現役6(うち推薦1、総数6)の合格実績を出しています。
※ 平成28年度 横浜サイエンスフロンティア高校 大学合格実績速報
カリキュラム
各種説明会での説明によれば、サイフロ附属では、高校内容の先取り学習こそ行われないものの、中学内容の深掘り学習が行われます。まずはこの点から、カリキュラムで私立他校に対して大きく不利になるとは考えづらいです。
また、高校募集を行っている高校でも、山手学院などは多くの難関大学合格者を輩出しています。一概に「併設型だから実績が伸びない」とはいえないのではないでしょうか。『進学レーダー』と関係が深い青稜なども、高校募集を行いつつ確かな実績を誇る学校です。
※ 平成28年度 山手学院中学校・高等学校 大学合格実績速報
その他
教育内容に融通が効くということは、それだけ、中身が先生方おひとりおひとりの力量に左右されるということを意味し得ます。必ずしも「融通が効く方が良い」とはいえない場合もあるでしょう。
異動があるということについても、異動があることのメリット、異動がないことのデメリットを無視できないはずです。
サイフロの適性検査に対して「それ専用の特別な準備が早期から必要なわけではなく」というところにも疑問符がつきます。夏に発表された適性検査問題の出題例は、たいへん高度なものでした。
なぜ『進学レーダー』はサイフロ附属を低く見積もるのか?
『進学レーダー』が、私立よりもサイフロ附属を低く見積もるのは、中学受験生が私立から公立中高一貫へとシフトしていくことへの危機感の表れだと思われます。
『進学レーダー』は日能研の雑誌です。
日能研は公立中高一貫校への合格実績で他塾におくれをとっています。公立中高一貫校への実績が高いのは中萬学院や栄光ゼミナールなどです。日能研は、湘南ゼミナールやステップ、臨海セミナーなどにも合格者数で差をつけられています。
日能研としては、小学生をそちらに奪われてしまうことは何としても避けたいのではないでしょうか。
『進学レーダー』は、サイフロ附属よりも魅力的な私学が多くあることをアピールし、中学受験に臨む層の私立への引き留めを狙っているものと考えられます。