2016年度「第62回 青少年読書感想文全国コンクール」の課題図書、『タスキメシ』の読書感想文例です。
分量は、題名・学校名・氏名を除き、400字詰め原稿用紙で5枚ぴったりです。
目次
タスキメシ
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『タスキメシ』を読んで
神奈川 花子
『タスキメシ』は、県駅伝での眞家早馬の走りのような作品だった。終盤に差しかかるまでは、美しいフォームで走る。そして、最後のデッドヒートでは、才能で押しきって勝利する。そんな作品だった。
物語におけるフォームとは、「文法」と「構成」だ。『タスキメシ』の終盤までは、このフォームがとにかく美しい。
私がここで挙げる「文法」というのは、語や文節の区切り、主語述語や修飾関係といった国文法のことではない。物語を作っていく上でのセオリーのことである。
例えば、「ヒーローは必ず一度ピンチに陥る」。アンパンマンは、けっしてはじめから必殺技を出さない。必ず一度は顔を濡らされる。登場早々にアンパンチを放ってバイキンマンを吹き飛ばすのは、作劇の文法を無視している。
こうした文法を、男性的な面においても、女性的な面においても、『タスキメシ』は忠実に守っている。
兄・早馬は、弟・春馬が倒れたのを見て覚醒し、ライバルの藤宮に打ち勝つ。しかしそこで早馬も倒れる。甘えん坊だった春馬は、自分の弱点だった偏食を克服して兄以上の才能を開花させ、過去の過ちを乗り越える。
助川は、不遇な生い立ちの都を大切に思っている。都とは小さい頃から一緒で、下の名前で呼び合う仲だ。その都が、自分の親友である早馬と二人きりでいることが増えた。ほとんど何も言い出せないまま、二人別々の道を歩んでいく。
このように文法を守っていれば、物語がおもしろくならないはずがない。さらに唸らされるのが、構成の妙だ。
最初のページをめくって立ち現れるのは、弟・春馬が箱根駅伝でスタートしようとしている場面だ。そこには藤宮と助川という先輩らしき二人がいる。襷リレーを受け、走り出した春馬は思う。
「走っているときの兄は、最強だった。強く気高く美しく、誰よりも速く、すべての人の前を走る。」
「さあ、追いついてやるよ。並んでやる。そして追い抜いてやる。」
そんな春馬の思いから、場面は一気に過去に、主人公は早馬に変わる。クライマックスの初めを構成の最初に持ってきて、「さあ」となったときに一気に過去に戻り物語を紡ぎ出す。これでページをめくる手が駆り立てられないわけがない。
春馬が調理実習室の教卓に隠れて兄の話を聞くところなども、あざといくらいに憎らしい構成だ。
フォームがよければ走りはおのずと速くなる。「文法」と「構成」がよければ物語はおのずとおもしろくなる。
しかし、そのフォームが終盤崩れるように思えたのは私だけだろうか。きっと、スパートがかかったのだ。終盤、人物や場所がめまぐるしく入れ替わる。時系列が激しく前後する。まるでミュージック・ビデオのカットインのようだ。もっと分量をかけて、ひとりひとりを丁寧に描いてほしかったとすら思う。しかし、ゴールライン目指して、物語は疾走する。
ラストスパートを支えるのは、ずば抜けた美しさだ。ひとつひとつの場面が、うっとりするくらいに美しい。とりわけ都をめぐる場面など、そこだけで大人の恋愛小説になりそうだ。そうした場面は、ひとつひとつが調和しきっておらず、フォームを乱している。しかし、それもまた、眞家早馬の走る姿のようだった。
最後に、早馬と都という二人の人物について少し触れておきたい。
早馬はもともと、陸上を辞めるつもりだった。しかし、結局は大学で再び走っている。優柔不断だと思う。助川に「管理栄養士になるんだろ」と問われたときには、「スポーツ栄養士になる」と答えていたにもかかわらず、結局、彼は病院の管理栄養士になる。やはり優柔不断だと思う。
都はこの物語のなかで、誰に対しても絶対的な優位性を保っている。そして、物語を操作できる。春馬を教卓のなかに隠したときには、いわば早馬を罠にはめている。助川を利用し、早馬を大学で再び走らせた。主要登場人物のなかで唯一の女性であることからも、おそらく最も思い入れをもって描かれた人物なのではないだろうか。
もしそうだとすると、余計な不安がわいてくる。
都の強さは、彼女がくぐり抜けてきたグロテスクな家庭環境に由来するものだ。そうした環境は、本当に、フィクションのなかだけであってほしい。また、成長した都はサバサバとした、露悪的なほど率直な言葉を使う女性になるだろう。そんな都の幸せを、心配せずにはいられない。
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参考
おー『タスキメシ』で読書会がヽ(^◇^*)/ https://t.co/myztvNijtE
— 額賀澪@『さよならクリームソーダ』 (@NUKAGA_Mio) 2016年7月15日
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— YAにゃんこ (@yungadultcat) 2016年7月28日