教職員人事異動

『二月の勝者―絶対合格の教室―』第19講「四月の成果」感想

『ビッグコミックスピリッツ』6月4日発売号に『二月の勝者―絶対合格の教室―』第19講「四月の成果」が掲載されました。


首都圏模試に対する黒木の作戦には疑問点が残る

模試の後半をすべて「捨て問」にするという黒木の作戦の意図は、こう説明されます。

「……できる問題を仕分ける」それだけで彼らには焦りのもとになる。
あせるからケアレスミスが起きる。
だから…最初から「半分しかやらなくていい」ということにして焦りを取り除いた

「できる問題を仕分ける」ことが難しいことはうなずけます。しかし、それならば、なぜたとえば

大問1と、大問2の解けそうなもの、そして大問3以降の(1)だけを解きなさい

ではだめなのでしょうか。

捨て問の作り方として「後半全部」というのは、後半にあるサービス問題や誘導問題を失うことになります。後半でも大問の(1)には、そういう問題が出されることがとても多いにもかかわらず、です。

やはり、今回の黒木の作戦には疑問が残りました。

【参考】 akira,「日能研の歩き方」「公開模試対策(6年生)」, https://ameblo.jp/akira11552001/entry-12373668483.html https://web.archive.org/save/https://ameblo.jp/akira11552001/entry-12373668483.html ,2018年5月5日(同22日閲覧).

広告


モチベーションアップを狙うならなおさら

黒木は今回の作戦を実行に移した理由を、

「点が取れた!」という事実。
どんなご褒美よりも、これにかなう喜びと原動力はないんですよ。

と説明します。そういう事実が、勉強に向かう何よりの原動力になるからこそ、模擬試験で得点・偏差値を上げさせたいというのでしょう。

しかし、もしそうであるならば、やはり「はなから〔後半〕半分、盛大にドブに捨てさせ」るという作戦には違和感を感じます。


取れる偏差値は50まで?

首都圏模試について――お話の展開上、そのように推定されますが――黒木は言います。

基本を確実に押さえてケアレスミスを防ぐことで取れる偏差値は、頑張っても50まで

この発言は妥当なのでしょうか。

4月15日に実施された首都圏模試を例にとります。

この模試で、先に挙げた作戦に従い、「大問1と大問2で全問正解、大問3以降の(1)も全問正解」とすると、90/150点となり、偏差値66を叩き出すことができます。

大問2の(6)、大問5~7の各(1)は正答率が低かったので、その分を引いたとしても、70/150点で、偏差値57に乗ります。

首都圏模試について言うのであれば、「基本を確実に押さえ」ているだけで、50台後半まで偏差値を伸ばすことができるはずです。

もっとも、その「基本」とは何か――となると、想定がかなりばらけそうですが。


2018 第1回 小6首都圏模試 算数正答率

問題番号領域名正答率
2(1)食塩水の濃度83.8
1(1)計算80.1
1(6)計算79.7
1(3)計算78.9
1(2)計算72.6
2(2)三角定規と角68.1
2(3)分数と規則性56.7
2(4)年齢算55.0
2(5)仕事算53.4
3(1)図形の規則性52.8
1(4)計算51.8
8(1)場合の数と数の性質48.7
1(5)計算44.0
4(1)通過算41.0
5(2)三角すいの求積34.3
2(6)円すいの表面積30.9
5(1)三角すいの求積25.1
6(3)集合算17.2
6(1)集合算16.2
3(2)図形の規則性15.9
5(3)三角すいの求積11.1
7(1)時計算9.0
6(2)集合算7.6
3(3)図形の規則性6.9
4(2)通過算4.9
4(3)通過算3.3
8(2)和場合の数と数の性質1.0
7(2)時計算0.6
8(2)数場合の数と数の性質0.3
7(3)時計算0.1

首都圏模試の算数シリーズは、今回で終了

首都圏模試の算数で得点を上げようとするシリーズは、今回で終了です。

広告


「将来の夢はお花屋さん」で「困るわねぇ」

今回の最後、生徒の浅井紫(ゆかり)が登場し、次回への橋渡しをします。

紫は佐倉に質問します。

「将来の夢」
小1の時には「花屋さん」って書いたらママ喜んだんだよね、でも、
小4の二分の一成人式でも「花屋さん」って言ったら、
「それじゃ困るわねぇ」って言うの。
どうして「花屋さん」だと困るのか教えてよ。

もし私が紫に答えるとしたら、どう言うでしょうか。


紫への答え

純粋に理由を尋ねる質問ですか?

浅井さんは、それでお母さんと言い合いをしているわけではありませんね?

私が「困らない」と言って、浅井さんに味方することを求めているわけではありませんね?

純粋に理由を尋ねているものだとしてお答えしますよ?

その、よくあるのです。誰か他の人に、自分が正しいと言ってほしいときが。そして、その気持ちが質問の形をとることが。

「どうして〇〇ちゃんって、あんなことするの?」

といったような質問です。それは、純粋に理由を尋ねる質問ではありませんね。

それから、あなたは私に質問をするという形で、実際にはただ、おしゃべりをしたいだけではありませんね?

塾に行けば勉強をしているものと、お母さんは思うでしょう。それをいいことに、あなた自身は、おしゃべりで時間をつぶそうという考えではありませんね?

お家で話を聞いてもらえないから、塾で話を聞いてもらうという場合もあります。浅井さんは、そのあたりは問題ないでしょうか?

少し脱線しますが、似たような話で、勉強が大変なときに

「なぜ勉強しなければいけないんですか」

と聞いてしまったり、生きるのが辛いときに

「なぜ生きているのですか」

と悩んでしまったりすることもあります。

純粋に理由を尋ねているのか、それとも、苦しみに理由を与えてほしいのか。それを考えて対応したいところです。理由を考えて答えるべきなのか、元の苦しみを取り去るべきなのか。

閑話休題。もとの話に戻りましょう。

花屋さんで困ることはありません

結論から言います。花屋さんで困ることはまったくありません。素敵な花屋さんになれるとよいですね。

しかし、お母さんの気もちも、想像できなくはありません。

小1のときは喜んでくれたのに、小4になると「困るわねぇ」となってしまう。

小1と小4では何が違うのでしょうか。

選択肢は十分にありますか?

まずはひとつめです。

日本では、将来の夢を尋ねられたときに、職業名で答えるのがふつうになっています。これについては思うところがあるのですが、ふつうはそうです。「サッカー選手」だとか、「ケーキ屋さん」だとか、もちろん「花屋さん」だとかと答えます。

浅井さんが将来の夢を尋ねられたときにも、やはり知っている職業のなかから自分の夢の職業を選んだと思いますが、そのときの選択肢はどれだけありましたか?

言い換えれば、浅井さんはいま、どれだけ多くの職業を知っていますか?

小1の浅井さんであれば、知っている職業はかなり少なかったでしょう。だから、選択肢も少なく、そのなかからあなたは花屋さんを選んだわけです。

しかし、小4の浅井さんは、より多くの職業を知っているべきです。少なくともお母さんはそうあるべきだと思っていらっしゃるでしょう。

お母さんはきっと、浅井さんが変わらず「花屋さん」と答えたことから、選択肢が増えていないのだと思って、まず、「困るわねぇ」とおっしゃったのだと思います。あなたが身のまわりの社会のしくみを学べていないということを意味してしまいますからね。

ちなみに、浅井さんが小1のとき、お母さんが喜ばれた理由は、

  • あなたが「花屋さん」を挙げたから――もそうかもしれないのですが、
  • むしろ「将来の夢」を言えるようになったから――

ということのほうが大きかったと思いますよ。

花屋さんの実際を知っていますか?

ふたつめです。

浅井さんは、花屋さんが実際にどのような職業か、どれくらい知っていますか。

花屋さんは、きれいな花を売るお仕事です。女の子の「将来の夢」としてよく例に挙げられますね。浅井さんにとって、そのお仕事は華やか(花屋さんだけに)に映っているのでしょう。おそらくお母さんも、

「紫はきれいな花が好きだから、将来の夢に『花屋さん』を挙げたのだわ」

と思っていらっしゃるのだと思います。そして、それでは困るとおっしゃっているのでしょう。

つまり、あなたが見た目の華やかさばかりを見て、実際の仕事の大変さを知らずに、無邪気に「将来の夢は花屋さん」と言っているのではないか、それでは困る――と、お母さんはおっしゃっているのです。

小4で求められることは

浅井さんは、もう小1の頃の浅井さんではありません。だから、お母さんは期待していらっしゃるのです。

  • まず、身のまわりの社会のことについて、より多くのことを知っていることを。
  • そして、見た目だけで物事を判断しないことを。

だから、なぜ他の職業ではなくて花屋さんなのか、そして、花屋さんは実際にはどれだけ大変で、それでも浅井さんが花屋さんになりたいのはなぜなのか――ということを説明すれば、お母さんは喜んでくださると思いますよ。


これまでの感想

首都圏模試算数編(算数偏差値40を50に伸ばすには)


『二月の勝者―絶対合格の教室―』第16講「三月の慟哭」感想


勇人編(中学受験に対する夫婦の温度差)


花恋編(フェニックス(サピックス)への転塾)


Twitter 1


Twitter 2