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『二月の勝者―絶対合格の教室―』第16講「三月の慟哭」感想

『ビッグコミックスピリッツ』5月7日発売号に『二月の勝者―絶対合格の教室―』第16講「三月の慟哭」が掲載されました。


感想1 電車の比喩

今回のお話の前半は、黒木が話す「電車の比喩」です。しかし、私は自分がこの比喩を理解できているのかどうかよく分かりません。

表にして整理してみましょう。

電車の比喩
(赤字は不明点)
意味(黒字)
解釈(青字)
「目的地」「『大学』です」
「在来線普通列車の旅」「公立中・公立高」で「目的地に向かう」
地頭がいいタイプは……どのルートを取ったとしても成功する」
普通列車では「『途中下車』してしまいかねない可能性も」
『私立中学への進学』すなわち、『中学受験』は特急券です」特急券=……?
「我々は特急券を買うお手伝いをする」特急券=合格?
「自由席では確実にに座れるとは限りません」席=私立中学進学後の快適さ?
「さらに快適を求めるとグリーン席券が欲しくなります」席=私立中学進学後の快適さ?
「我々はいわば『指定席券』を売る業者です」席=合格?
「生徒を自由席の列に並ばせるおつもりですか? ……もとれないかもしれないんですよ」席=合格?
「全員が全員を確保するのに必死」席=合格?
「自由席で並んでもを確保できた運や地頭のいい特殊な子ども……を参考にしてもダメ」席=大学合格?
「座席指定券を買うことに躊躇するようではダメ」座席指定券を買う=合格をお金で買う?

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「『私立中学への進学』すなわち、『中学受験』は特急券です」というくだりでは、「進学」と「受験」を「すなわち」で結んでいます。しかし当然、「受験」しても不合格であれば「進学」はできません。

どういう意味なのか、分かりかねるところです。

「特急券、ただ買うだけでは意味がありません」?

「自由席では確実に席に座れるとは限りません」ので、「この特急券、ただ買うだけでは意味がありません」と黒木は言います。

これはどういう意味なのでしょうか。

  • 案① 「私立中学を「受験」したとしても、不合格だとしたら意味がありません」
  • 案② 「私立中学に「進学」したとしても、大学進学実績が低い学校だとしたら意味がありません」

特急券を買うことができた以上、たとえ座れなかったとしても、特急列車に立って乗車することはできると思われます

「グリーン席券」だと「快適」だと言っていることからも、ここではどこかしらの私立中学に「進学」したあとの快適さを問題にしているのだと考えられそうですが……。

「席」とはいったい何か

上記表中に青字で書いたものが、私の「席」の解釈です。同じ「席」という比喩にさまざまな解釈を充ててしまっています。

おそらく間違いを含んでいるのだと思います。セリフを追っていて混乱しました。


感想2 塾講師は「教育者」ではなく、「サービス業」

黒木のセリフ

塾講師は「教育者」ではなく、「サービス業」です。

を、この部分だけ取り出すならば、抱く感想はこうです。

正当な競争を

講師の生活にもお金が要るのだから、どんなに生徒のためを思ったとしても、利益を(長い目で見て――でもよいが、とにかく利益を)出せないことはできないし、するべきでもない。

たとえば、コマ給で働いている講師は、賃金が発生しない時間に生徒の質問に対応すべきではない。塾同士での正当な競争を歪ませるからだ。
雇用されている講師が無給で生徒の質問対応に応じる塾は、賃金を払って質問対応の講師を配置している塾に対して、不当に有利な立場に立っている。

質問対応に応じる講師がいる――ということで評判が高まるなどしてより多くの利益を得た会社が、質問対応に応じた講師に対して賃金を支払った上で、会社としてもより大きな利益を得る。これが正当な競争である。


感想3 「大人は簡単に子どもをつぶしてしまいますよ?」

今回のお話の前半は、佐倉が話す「子どもをつぶす大人」の話です。

中学受験の典型的な失敗パターンのひとつが、子どもの発達段階が追い付いていないにもかかわらず受験を強行し、家族みんなで精神的に追い詰められる――というものでしょう。

こういうとき、塾の立場としては、たとえば、全員の顔を立てる「アリバイ作り」に励むというものが考えられます。

能力別クラス編成の下のクラスや個別指導において、成績が上がらない、そもそも初歩的な部分でなっておらず、士気を上げることもできない生徒を受け持つ場合、なおかつ、親御さんも切羽詰まってしまっている場合を例に挙げましょう。

そのような場合には、子どもを塾に缶詰めにして、

「ご家庭では一切勉強させずに結構です。しかしその代わり、塾で朝から晩まで勉強させます」

とお伝えする。その上で、塾の中ではのびのびさせる。

入試本番では、記念受験校を並べる中に確実な押さえを入れておいて、

「いいところまで行ったんですけれどもね、〔記念受験校も〕あと少しでした」

ということにすれば、全員のメンツ・利益を保てます。

  • ご両親: 「あと少しのところで難関校に受かったのだが……」
  • 子ども: 「受験勉強をがんばった」
  • 塾: (朝から晩まで多くの講座をとっていただいた)

もちろんこれは悪い対応です。心ある先生方は、こうした対応はなさいません。

ただ、人情として、親御さんが強硬に中学受験を主張なさり、子どもにも強くあたっている場合、塾までもが子どもを追い詰めたくないものです。

また、こちらは悪い考えですが、勧誘ノルマがきつい場合には、いわゆる「お客さん」を持ちたくなるものでしょう。大規模塾が優秀な生徒に対して多くのリソースを注ぎ込めるのも、ひとつには、多くの「お客さん」に支えられているからでしょう。


感想4 「都合よく本人の意思だと思い込んで」

佐倉の回想シーンで、少年が佐倉に対し

「佐倉先輩! ぼく絶対勝たなきゃならないんです。絶対に勝たないと、今度こそ勝たないとぼくは…」

と言います。佐倉はこれに

「わかったよ 君を、絶対に勝たせる。だから、どんなに厳しくても絶対についてきて」

と答えています。

回想している佐倉の様子から、彼女はこの少年を「つぶして」しまったようです。

「(どこそこの学校に)合格したい」
「(これこれの試合・コンクールで)勝ちたい」

という気持ちは、子どもたちの本当の気持ちなのだろうか――これが佐倉の疑問でしょう。

受験指導の場でも、

  1. 「まずは志望校を決めなさい」
  2. (生徒はとりあえず志望校を決める。特に思い入れはない)
  3. 「〇〇中学/高校/大学に行きたいんだな。よし、それならこれくらいがんばらなくちゃだめだ。〇〇に行きたいんだろう? このくらいやらないと受からないぞ?」

という光景を見ることがあります。


感想5 上司と部下

今回のお話では、新人の佐倉が教室長の黒木にズバズバと意見しています。これはどうなのでしょうか。

佐倉は黒木の部下なのですから、黒木の指示や命令、黒木の方針には従わなければならないはずです。ところが佐倉は黒木に対してずいぶんと反抗的です。

黒木も暇ではないでしょう。管理職の時間は貴重なものです。その時間を佐倉がとってしまっていることには、もやっとした気持ちを抱きました。

もちろん、風通しがよいことはよいことですし、それが業界の特徴だとも思うのですが。


これまでの感想

勇人編(中学受験に対する夫婦の温度差)

花恋編(フェニックス(サピックス)への転塾)


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